いつも通りに動物保護をしたと思っていた消防士、救助後のその正体にビックリ!
消防士は毎日、一般市民の安全を守るために命を懸けている。毎日毎日24時間休むことなく、たとえ危険な状況であっても、何度でもすぐに対応する。この勇敢な人たちは消火活動など、人命や財産を守るため、危険に身をさらして働くのだ。
このように常に危険と隣り合わせの職業、それでも消防士になりたい人が後を絶たないのは、それがとてもやりがいのある仕事だからだろう。同じ人間という存在を慈しみ、深い愛情を抱く人の多くが、この危険でありながらも達成感のある仕事を追い求めている。しかしながら、消防士の仕事は人の命を救うだけではないことをこの話が証明してくれる。
ごく「普通」の一日
消防士の仕事に、ごく「普通」というものは存在しない。常に火事や事故、次々と生じる異常な事態に対処しなければならず、消防士の仕事というものは、本当に予測がつかない。
3月のある日、コロラド州スプリングス消防局(CSFD)で、消防チームは緊急電話に備えて待機していた。誰もが、この後どんな驚きに遭遇するのかなど、もちろん予想だにしていなかった。
経験豊富なチーム
この日CSFDで勤務中のクルーは、何年も共に勤務している仲間だった。これまでにも人生を変えるような出来事や非常事態をくぐり抜けており、どんな事態が起こっても対応できるよう常に備えていた。
この日のシフトは特段いつもと変わりなかった。そして、突如として緊急の通報が入る。電話をかけてきた女性は、助けを求めていた。
動物を助けてほしいという緊急電話だった
電話口の向こうで、その女性は、どこか近くで動物が身動きが取れなくなっているようだから助けてほしいと言った。
状況の詳細は分からなかったものの、緊急事態下においては、一秒たりとも無駄にできないことを熟知している消防士らは、すぐさま消防車に荷を積んだ。何が起こっているのか状況を一目見れば、対応することができるのではないかと思い、直ちに出動したのだ。
プロトコルを念頭に置いて
消防士らは助けの要請が入った場所へ急いで向かいながら、これまでに動物を救出したケースについて振り返っていた。中には単純なものもあったが、少し複雑な救出作業を必要とするものもあった。
厄介なのは、この日に助け出そうとしている動物が何なのか分からないということだった。動物は危機に瀕したとき予想外の行動に出ることも多いため、救出は慎重に行わなければならない。
常に備える
消防士として働く上で、「どんなことにも備えること」は最も重要な要素の1つだ。CSFDのクルーは、救出要請が入った場所が市内であったことから、おそらく救出を必要としているのは犬かネコだろうと考えていたが、その他の動物である可能性も完全には捨てきれなかった。
幸いにも、出動した消防士らには様々な状況下で動物を救出した経験がある。今回も救出できる。そう考えていた。
現場検証
現場に到着すると、何が起こっているのかようやく分かった。どうやら排水路に何かの動物が落ちて出られなくなっているようだった。そこで消防士らは、どうしたらいいのか判断するため、排水管へと急いだ。
少なくとも、この日の天気は悪くなかった。もしこれが嵐の中の救出作業であれば、動物にとっても、消防士らにとっても、より危険の多い作業になったことだろう。
水の危険
天気は味方をしていたものの、状況はかなり悪かった。その排水管は深いだけでなく、暗くてよく見えなかったのだ。さらに水温もかなり下がっていた。
排水管の開口部が小さかったため、消防士らは中で身動きが取れなくなっている動物はそこそこ小さいのだろうと考えた。つまり、その動物はまだ子どもであるか、はたまたまだ生まれたばかりの赤ちゃんという可能性もある。消防士らは、この動物が何であれ、直ちに救出しなければならなかった。
中を覗くと…
排水管から出られなくなった動物を安全に救出するには、まず開口部を覆っている格子状のフタを開けることが先決だと判断した。そこで、すぐにフタを外しにかかった。消防士らは、フタを外すや否や、中から小さい動物がひょっこり顔を出すのではないかと少し期待していたのだが、何も出てこなかったのだ。
しかしすぐに、か細い動物の鳴き声が聞こえた。そう、本当にその動物は小さな小さな赤ちゃんだったのだ!可哀想な動物を助けようと、消防士はすぐに手を伸ばした。
暗くてよく見えない
排水管が深くて暗かったため、必死に助け出そうとしている動物が何なのか、目で確かめることは難しかった。一般的に、犬やネコはこんな狭くて湿った場所で出産することはない。どうやって赤ちゃんがこの排水管の中に入ってしまったのかについて、誰もまったく見当もつかなかった。
何の動物であろうと、どうやってその中に入ってしまったのであろうとも、消防士らの1番のミッションは、赤ちゃんをそこから安全に救出することだった。
母親を探す
消防チームは二手に分かれ、一方のチームが赤ちゃんの救出方法についてあれこれ思案を巡らせている間、他方のチームは赤ちゃんの母親が近くにいないかと探すことにした。母親の無事を確認したかっただけでなく、母親を見つければ、その赤ちゃんが何の動物であるか分かると思ったからだった。
チームは辺りを探し回ったが、母親を見つけることはできなかった。そこで、この赤ちゃんらはおそらく見捨てられてしまったのだろうという結論に至った。
赤ちゃんの命を救え
救急隊員らは日常的に衝撃的なものを目にしてもなお、それに対応しなければならない。しかし、もちろん救助隊員らにも我々と同じ、人間としての感情がある。そして、生まれたばかりの赤ちゃんが母親に捨てられたのではないかと考えると、どうしても悲しい気持ちを抑えることはできなかった。
消防士らは、ますますどうにかして赤ちゃんを助けようという気持ちになった。中には救出が間に合いますように、と祈る者もいた。この赤ちゃんの小さな命も、尊さは変わらないのだ。
考えられる可能性
消防士らは、母親が赤ちゃんを見捨てたのだろうと考えたものの、その母親について思案を巡らせ始めた。もしかしたら、母親は赤ちゃんを捨てたのではなく、何か食べるものを探しに行っただけだったとしたら?
もしそうだとすれば、消防士らが赤ちゃんを安全な場所に移してしまえば、母親は赤ちゃんを見つけることができなくなってしまう…。チームにとっては答えの出ない問題だった。しかし、排水管の水温はあまりにも低く、時間はあまり残されていなかった。
野生動物?それとも…?
赤ちゃんらに最適な治療をし、世話する上で、何の動物であるのかを知ることは非常に重要だった。犬やネコのような人に飼われている動物であれば、すぐに多くの支援が必要となる。
しかし、これが野生の動物であれば、そのままにしておいた方がいい場合もある。そうすることで自分たちで生き延びる方法を学ぶからだ。ついに、排水管の中から赤ちゃんを救い出し、どうするべきかを決断するときがきた。
もちろん、かわいい赤ちゃん
消防士の1人が赤ちゃんを1匹ずつ取り出そうと手を伸ばした。最初の1匹を優しく取り出すと、残りの消防士らはその動物が何なのかを見ようと首を伸ばした。
消防士らの表情がすべてを物語っていた。小さなかわいらしい赤ちゃんに、消防士らはすぐに心を奪われたのだ。残りすべての赤ちゃんらも救出された。真っ黒なふわふわの毛に、垂れた耳と細長いしっぽが見えた。
仔犬たち、やっと外の世界に
そう、この小さなかわいい赤ちゃんは仔犬だったのだ!チームはこれまでに何度も犬を救出したことはあったが、排水管の中から救出したのはこれが初めてだった。通常、母犬はそんなところで出産しないため、なぜ仔犬らがそこにいたのかは依然として不明のままだった。
消防士らは、おそらく飼い主が仔犬を飼えないと判断して排水管に捨てたのだろうという結論に至った。考えるだけでも酷い話だが、消防士らは、少なくとも可哀想な仔犬らを救えたことに安堵した。
仔犬らのお世話
消防士らは、仔犬たちがこんな厳しい状況に捨てられた理由について思いをはせるとやり切れない気持ちになったが、仔犬たちに必要なことをしてやろうと気持ちを強くした。
飼い主が仔犬たちを排水管に捨てたのだという推測は間違っていてほしいと願いながら、チームはこの仔犬らを安全に保護し、元気になるようにすべきことをしなければならなかった。そう、まずは仔犬らを温めてやらなければならない。
温め合う仔犬たち
仔犬らはみんな真っ黒で、合計で8匹いた。実際、体の色が真っ黒であることから、消防隊員らはもしかしたら暗くて見えないだけで、まだ排水管に残っている赤ちゃんがいるのではないかという不安もあった。しかし、仔犬はこれで全部だったようだ。さて、次は仔犬たちを温めてやらなければならない。
幸いにも、仔犬らは互いに体を寄せあう習性がある。こうすることで互いを温め合うことができるのだ。
仔犬らが排水管に入っていた理由
消防チームは、どうして仔犬たちが排水管に入ってしまったのかについての真相を探るべく、最初に緊急電話をかけてきた女性に話を聞くことにした。彼女の話から、飼い主が仔犬たちを捨てたわけではないことが分かり、消防士らは安堵する。
その女性は、暴風雨に襲われた日に、仔犬らが雨水の濁流にさらわれているのを見たと証言したのだ。消防士らは、残酷な飼い主のせいでこうした状況になったのではなく、すべては事故だったということを知って胸をなで下ろした。そして、仔犬らを救出してほしいと電話をかけてきた女性に感謝を述べた。
仔犬らの犬種はなんだろう?
犬を見ただけでその犬種が何であるかを判断するのは難しい。特にそれが生まれたばかりの仔犬で、冷たく湿った排水管にいたというような場合には尚更だ。しかし、消防士らは仔犬の健康状態を確認しながら、その犬種が何であるか考えた。
チームの結論は、おそらくこの仔犬らはラブラドールたろうというものだった。というのも、仔犬はツヤツヤした黒い毛皮に覆われていたし、尻尾は細長かったからだ。次にすべきことは、もっと詳しく仔犬らの健康状態を検査するために動物病院に連れて行くことだった。
仔犬ら、試練の数々を乗り越える
可哀想な仔犬らは排水管に流された後、厳しい状況に置かれていた。やっと救出されたときには、体中の毛は汚れ、生まれたばかりということもあって、寒さはその身にかなりこたえたはずだった。
消防士らは仔犬をすぐにパイクス山地区の動物愛護協会へと連れて行った。そこで、同協会の獣医に詳しく健康状態をチェックしてもらった。消防士の1人、マーク・ジェンキンスは仔犬らのその後の状態について教えてほしい、と電話番号を残しておいた。
獣医から予想外の知らせを受ける
消防士らが動物愛護協会に仔犬らを連れて行ってからまもなくして、マーク・ジェンキンスの電話が鳴った。はじめ、マークは仔犬のことで何か悪い知らせを聞くことになるのではないかと不安だったが、獣医から仔犬らの健康状態は安定していると聞いてホッとした。
マークは同僚が見守る中、獣医と電話で話し続けていたが、突如として笑い出した。他の同僚らは一体何が起こっているのかまったく分からなかったが、獣医との電話を終えたマークは、その内容について話し始めたのだ。
仔犬らについての衝撃の事実
消防士らは、自分達が救出したのはラブラドールレトリーバーの仔犬だと信じていた。しかし、みんなの予想を裏切って、獣医は仔犬らについてのある事実を明らかにしたのだった。
赤ちゃん達は犬ではなかったのだ。仔犬だと思っていた動物は、なんと、アカギツネの赤ちゃんだったのだ!獣医の説明によると、キツネの赤ちゃんは生まれたばかりのときには仔犬とよく似ているということだった。そのため、消防士らがキツネを仔犬だと勘違いするのも無理はないという。
お次は?
獣医は赤ちゃんキツネらの母親が大丈夫だったのだろうかと心配していた。消防士らは赤ちゃんキツネらを見つけた場所を熟知していたため、獣医は消防士らにもう一度赤ちゃんを連れて現場に戻って、母キツネを探してみてほしいと頼んだ。
生まれたばかりの赤ちゃんキツネにとって、母親の愛に勝るものはない。そのため、消防士らは獣医に言われた通り現場に戻り、母親を探した。もしかしたら母キツネも必死に赤ちゃんを探しているかもしれないのだから。
現場に戻る
消防士らは、早速赤ちゃんキツネを先ほど救出した現場に連れて戻った。そして、戻したくはなかったが、赤ちゃんキツネらを排水管に戻し、母キツネが赤ちゃんを探しに戻ってくるかどうか、その場から離れて見守ることにした。
キツネは夜行性であることから、おそらく戻ってくるにしてもそれは夜のことになるだろう。消防士らは辛抱強く日没を待った。赤ちゃんキツネらの体がすっかり冷え切る前に、母キツネに現れてほしい、と強く願っていた。
辛抱強く待ち続けた日々
残念ながら、仔ギツネたちの母親はその日の夜も、その後も現れなかった。消防士らは辛抱強く待ち続けたが、母キツネが現れることなく、いたずらに日が過ぎ去るのは我慢ならなかった。
たいていの動物の母親は子どもの元に戻りたがる。そのため、母ギツネが戻ってこないのは、もしかしたら何かの事故にでもあったのではないかと消防士らは考え始めた。母キツネがいなくても、仔ギツネらを育ててくれる場所を見つけた方がいいのではないかと、誰もが思い始めていた。
仔ギツネら、再び居場所を移動
弱々しい仔ギツネらは、すでに過酷な試練をくぐり抜けてきていたが、再び居場所を移されることとなった。消防士らは仔ギツネらを排水管から取り出すと、さまざまな動物を野生に戻すために世話をしていることで知られているウッドランド・パークの動物病院の専門家の元へと連れて行った。
仔ギツネらが育つ環境として、これ以上に最適な環境はないため、消防士らも安心して仔ギツネらを預けられる。そこで専門家のケアを受けながら、仲間のキツネと共に仔ギツネらが育っていくことや、知識のあるスタッフの下で野生に戻る訓練が受けられることを知って、みんな喜ばしく思っていた。
その後
消防士らが仔犬だと思って救出した動物が、実際にはキツネの赤ちゃんだったという話は、面白いが良い教訓でもある。
消防士らは、野生動物と関わって素晴らしい経験ができたことを幸運だと考え、この珍しい話から、他の多くの人が野生動物とそれにまつわる誤解についてもっと学んでほしいと願っている。
そんなに珍しいことでもない
野生動物の専門家らは、住宅が建ち並ぶような場所、大都市でさえも、キツネや仔ギツネを見つけることはさほど珍しいことでもないと述べている。一般的には、メスのキツネは冬の終わり頃に出産し、巣の中で子どもを育てる。
今回の仔ギツネらが排水管に流される前にどこにいたのかは分からないが、自然も少なく、馴染みのない都市などの環境においては、排水管ももしかしたらキツネには赤ちゃんを産み育てる安息の地のように感じられたのかもしれない。
たくさんの助けと希望
この仔ギツネらは、捨てられたのか、事故にあって死亡してしまったのかで母親を失ってしまったものの、今後の生存の見込みは十分にある。コロラド州スプリングス消防局をはじめ、パイクス山地区の動物愛護協会やウッドランド・パークの動物病院の助けを得られたのだから。
仔ギツネらは今後も平穏に暮らしていけるだろうし、この物語を知る人はみんなこの仔ギツネらを応援することだろう。
野生動物の保護
この仔ギツネらの物語は、都市が無秩序に拡大していることを示す良い例だ。このために、野生動物は居場所を失い、通常はいないはずの場所で目撃されるようになっている。
人間は、こうした事実について認識すると共に、我々の裏庭に現れることになる野生動物をどうやって保護するのがベストなのかを考えなければならない。助けを必要としている動物を見つけたなら、適切な機関に連絡してほしい。我々は、人間であれ、動物であれ、困っている人・動物を助ける社会的な責任を担っているのだから。
ヨーロッパから持ち込まれたアカギツネ、オーストラリアで苦戦
たいていの人は、キツネを見ると可愛いと思うことだろう。最近では、キツネをペットとして飼っている人もいて、よくソーシャルメディアでも見かける。だがしかし、オーストラリア人は、キツネに対して、他とは異なった関係性を持っている。
1850年代、ヨーロッパ人はレクリエーションの狩猟用にアカギツネをオーストラリアに持ち込んだ。アカギツネは比較的どこでも生きていけるため、ヨーロッパから持ち込まれたアカギツネは世界で最も広範囲に生息する肉食動物となっていった。そしてこれはオーストラリアの野生動物にとって、決して良いニュースではなかったのだ。
オーストラリアではキツネは駆除対象
オーストラリアでは、ヨーロッパ・アカギツネは害獣と見なされている。政府当局は地元の生態系に害を与えるため、危険だと考えているのだ。タスマニア州では、キツネは絶滅の危機に瀕しているワラビーを含む77種の動物を捕食するという。
ある研究によると、任意の環境内でキツネを排除することで、クロアシイワワラビーを含むその他の動物の個体数がかなり増加することが明らかになっている。こうしたこともあって、オーストラリア政府はキツネの駆除を推奨している。残酷なようだが、元々の環境を守るためにそうせざるを得ないようだ。
幸運な赤ちゃんギツネ
ある日、ヨーロッパ・アカギツネの赤ちゃんがとある農場に足を踏み入れたとき、その仔ギツネの運命は終わったかのようだった。オーストラリア政府の「餌をしかけ打ち取る」プログラムに従って、農場主は銃で駆除するつもりだった。銃を借りてこようと隣の家に行ったのだ。
しかし、隣の人は留守だった。農場主はどうやって農場から仔ギツネを追い払おうかと思案した結果、シドニー・フォックス・レスキューに電話をした。そして、そこがこの仔ギツネにとって安住の地となるのだった。
シドニー・フォックス・レスキュー
オーストラリアの動物愛好家らは、害獣駆除命令(PCO)やキツネの取り扱い(餌で釣って駆除する)に反対している。その代表的な組織の1つがシドニー・フォックス・レスキューで、キツネの個体数を安全かつ環境に優しい方法で管理する方法を周知させようとして活動している。同団体はキツネにマイクロチップを埋め込み、予防接種をし、去勢手術を行うことで、平和に暮らせるようにしているのだ。
PCOにより、キツネを獣医に見せたり、治療や保護したり、輸送または救出することは違法とされている。そして2012年以降、動物擁護団体はこうした法律に反対している。シドニー・フォックス・レスキューなどの団体は、赤ちゃんギツネの命を救っているのだ。
ウィラと名付けられる
農場主がシドニー・フォックス・レスキューに電話すると、ボランティアのスタッフが来て、仔ギツネを連れて行った。同団体は仔ギツネにウィラという名前をつけた。ウィラにとっては幸いなことに、このキツネ保護団体は動物を野生に戻すようなことはしなかった。ウィラのダニや病気をチェックした後、シドニー・フォックス・レスキューはウィラをシュガーシャイン・サンクチュアリへと移送した。
ニューサウスウェールズ州にあるシュガーシャインは飼い主のいない動物にとって安全な住環境を用意してくれる。シュガーシャイン・サンクチュアリには仔羊や牛、アヒル、ブタ、山羊、そしてもちろん、キツネがいた。
シュガーシャインで友達作り
シュガーシャインで、ウィラは自然の生息地で安全に暮らすことができる。ウィラは、カスタード、ブロッサム、トフィー、アテナという名の4匹のキツネに仲間入りした。ウィラとアテナはすぐに仲良くなった。しかし残念ながら、アテナはその後まもなくしてニシキヘビに殺されてしまう。
再び孤独になったウィラは友達を探し始めた。幸いにも、シュガーシャインには仲良くなれそうなさまざまな動物がいた。そこでウィラが見つけたのは、イサベルという捨てられたグレーハウンドだった。
のろまなグレーハウンド、イサベル
イジーと呼ばれていたグレーハウンドのイサベルは、かつてはレースで活躍していた犬だったが、年を取り、飼い主は「必要なくなった」イサベルを、安楽死させようとしていたのだ。幸いにも、イジーを安楽死させようとしていることを聞きつけた人が飼い主からイジーを引き取って、保護団体に連れてきたのだった。
イジーが連れてこられた保護団体こそ、後にウィラが連れてこられるシュガーシャインだったのだ。誰もこの2匹が友情を育み、ディズニーの『キツネと猟犬』の現実版となることを予想だにしていなかった。
ありそうもない、でもパーフェクトな組み合わせ
孤児の仔ギツネのウィラと、レースを引退したグレーハウンドのイジーは大親友になった。まるで運命であったかのように、2匹はいつも一緒だった。イジーの大らかな性格は、ウィラのやんちゃぶりに磨きをかけ、犬はキツネの母親のようになっていったのだ。
シュガーシャインの共同創設者であるケリー・ネルダーは、イジーはとても辛抱強いと語っている。「イジーはウィラが自分の周りにまとわりついても、餌を盗み食いしても、お腹にすり寄ってきてもまったく怒りません。」このありえそうもない組み合わせは、いつも一緒に過ごしている。
犬とキツネ、同じイヌ科
実は犬もキツネもイヌ科という同じ種に分類される。しかしながら、犬はイヌ科イヌ属に、キツネはイヌ科キツネ属に分かれる。種族があまりにも違うために異種交配させることはできないが、それでも犬とキツネは仲良くなれるのだ。
犬は10~13年生きるのに対し、キツネはわずか2~4年ほどの寿命しか持たない。さらにキツネは犬よりも臆病だ。特にヨーロッパ・アカギツネは臆病なことで知られている。
驚くべきことに、すべての犬がキツネを好きだというわけではない
野生では、ほとんどのキツネが人や他の動物がいないような道を進む。時に、ある犬種がキツネのニオイを感知しても、たいていはそのニオイを好まない。犬もキツネも縄張り意識の強い動物だが、犬はキツネのニオイを嫌うことが多い。
もちろん、すべての犬がキツネをすぐに避けるというわけではない。というのも、中には他の犬よりも縄張り意識が強い犬もいるのだ。しかし、ウィラとイジーのように、中には互いのことを気に入るペアもいる。2匹は心から共に過ごす時間を楽しんでいた。
イジーとウィラ、とても仲良し
ケリー・ネルダーは、ウィラがよくイジーの尻尾で遊んでいるとも語っている。「ウィラはこっそりイジーの背後に回って、動く尻尾をしばらく眺めた後、飛びかかるんです。運よくウィラが尻尾を捕まえたときには、おもちゃと一緒に秘密の隠し場所に持っていこうとするんですよ。イサベルの尻尾がイサベルから離れるわけないってことに気づいていないようなんです。」
イジーとウィラはビーチにも共に出かける。イジーは悪ふざけをするウィラの頭全体を面白がって口の中に入れたりして遊んでいるという。
現在、キツネはペットとしても飼育できない
少しの間ではあったが、シュガーシャインのスタッフはウィラを保護すべきかどうか思案していた。最近のオーストラリアの法律ではペットとしてキツネを飼うことも禁止されているためだ。幸いにも、ウィラはこの法律が施行される前に登録を済ませることができたため、法律的にも合法的に保護されることとなった。
ウィラはシュガーシャイン・サンクチュアリですくすくと成長していけるものの、イジーとビーチに行くことは叶わなくなった。そして今後、捕獲されたキツネはすべて安楽死されることになる。
政府はなぜキツネを捕獲しないのだろうか?
多くの活動家らは、キツネを安楽死させる代わりに、保護して個体数を増やさずに管理できるとオーストラリア政府に訴えている。残念ながら、個体数を管理する案を実現するには費用がかかりすぎるようだ。キツネを捕獲するため、専門家らは餌でキツネをおびき寄せなければならないが、13,500㎡のエリアに餌を仕掛けるためには1.35億円もかかるという。
さらにキツネの個体数増加を制限するために、エリアにフェンスを巡らせるのも費用がかかる。1㎞のフェンスを張り巡らせるのにおよそ100万円もかかるため、オーストラリアの動物愛好家らは自分の敷地内でキツネを飼育し、管理しているのが現実だ。
キツネの命は危険にさらされている
オーストラリア政府は、ペットとしてキツネを飼育することを非合法化し、キツネの輸入を阻止することで、個体数を減少させることができるのではないかと考えている。確かにそうかもしれないが、ネルダーはこの法律に反対している。「動物に善し悪しはありません。確かに野生のキツネは他の野生動物種にとっては危険かもしれませんが、きちんと囲いの中で保護して飼育すれば、他の動物にとっての脅威とはなりませんし、それぞれに個性のあるフワフワのかわいい動物でしかないのです。」
「キツネとして生まれてきたからというだけで殺されるべきではありません。ただ、残念なことに、現在の害獣駆除命令はそういうことを意味しています。」と、ネルダーは言う。
それでも、ウィラは平和に暮らしている
2019年の時点で、オーストラリアのキツネの運命は分からない。だが、ウィラとイジーはシュガーシャイン・サンクチュアリで平和で幸せに暮らしている。ウィラは親友と戯れて遊んでいる一方で、オーストラリアにおけるキツネの現状についての認識を広めている。
シュガーシャインは、自身のフェイスブックやインスタグラムでウィラの物語を載せている。現実版の『キツネと猟犬』の物語は急速に広まっていった。インターネットユーザーらはこのかわいいペアの物語に夢中になっているようだ。
ウィラとイジー、キツネと猟犬ペアは他にも
ウィラとイジーの物語は世界中に広まったものの、この物語は6年前のものによく似ている。そう、それは2012年、ノルウェーの写真家であるトルゲイル・バージが飼っていたジャーマン・シェパード犬のティニーを散歩に連れて行ったときのことだった。
バージとティニーが森の中を歩いていると、捨てられたキツネに出くわしたのだ。「まだほんの仔ギツネでした。おそらく母ギツネは死んでしまったのでしょう。助けや仲間を求めていたのでしょうか。もちろん、食べるものも。」と語るのは、バージの共同執筆者であるベリト・ヘルバーグだ。
スニッファー、飼い犬と仲良くなる
キツネを見つけたバージは、そのキツネにスニッファーという名前をつけた。バージがティニーが散歩に出るたびに、スニッファーと出会うのだった。そのうち、キツネとジャーマン・シェパードは共に遊ぶようになる。毎日、数時間ほど共に遊ぶようになっていった。
そして写真家であれば誰もがそうするように、バージはこのキツネと犬の友情を写真におさめはじめたのだ。そしてこのかわいい写真をフェイスブックの『ネイチャー・フォトグラフィー』グループに投稿したところ、瞬く間に2匹は話題となった。
2匹の友情、人々の考えを変える
バージはスニッファーとティニーの友情が育まれる様子を見ているうちに、キツネの毛皮取引についての考えを改めた。今は、バージは毛皮貿易などの取引は禁止されるべきだと考えている。フェイスブックにバージはこう記している。「キツネは行動や性格が犬によく似ています。そして何百万ものスニッファー(毛皮にされるキツネ)のことを考えると、本当に心が痛み、涙が出ます…。一生を毛皮のために檻に入れられたままだなんて。」
ヘルバーグはバージの写真が「犬とキツネが実際にはどのくらい似ているのか、これまでに知らなかった人に気づかせてくれる」役割を果たしていると述べている。
ご心配なくーティニーとスニッファーの写真集が出版予定
トゥデイ誌によると、トルゲイル・バージは友人のベリト・ヘルバーグと共に、数々の写真を写真集として出版する予定だという。「キツネと犬のこんな友情を見る機会に恵まれている人はそう多くありません。」とヘルバーグは言う。「でもトルゲイル・バージは実際に2匹が遊んでいる様子を見て、何の説明も必要としないような素晴らしい写真を何枚も撮影しているんです。」
バージはティニーとスニッファーの物語が広まることで、毛皮取引で搾取される動物に対する人の認識が少しでも高まれば、と望んでいる。
スニッファーとティニーは現在もまだ友達
ヘルバーグの本『スニッファーとティニー』はすでに販売されている。その一方で、バージはキツネと犬の様子を記録した写真や動画を投稿し続けている。2匹の動物は、まるでずっと前から友達であったかのように、じゃれ合い、走り回って遊んでいる。
ティニーとスニッファーは今や散歩だけでなく、寝食を共にしている。2018年に起こったウィラとイジーの物語は、まさにティニーとスニッファーの物語と同じだ。どうやら、キツネと犬には、人が考えている以上に共通点があるようだ。