7年間、気難しい常連客に対応し続けた女性が受け取った涙のプレゼントとは
飲食店などの接客業で働いたことがある人は誰しも、彼女と同じ経験をしたことがあるかもしれません。それは、時に機嫌の悪いお客様への配慮だったり、苦情対応だったりと様々です。そう、人と接する職業は、いつも楽しいことばかりではないのです。
この物語は、とあるアメリカンダイナーに通う気難しい常連客と店員の間に起こった出来事です。常連客の気難しい男性は、悲しい事実と引き換えにまさかのサプライズプレゼントを彼女に用意します。果たして、その中身や経緯とは?
テキサス州の店員 メリーナ
アメリカテキサス州にあるLuby'sでこの事件は起きました。そこには、メリーナという名の働き者の女性店員が長い間働いていました。彼女は、決して多いとは言えない収入でも、この仕事を心から愛していました。
それは、毎日のお客様とのコミュニケーションや、顔馴染みの常連客との他愛のない会話が楽しみであることも示していました。しかし、経験の長い彼女でも決してあのような悲しく、そして驚くような事件が起こるとは心にも思っていなかったのです・・・・
きめ細かい彼女の接客
彼女の接客は、どんな人も笑顔に変える、まるで魔法のような接客でした。同じ店で働いていた同僚たちも、メリーナの接客には、常に感心させられ、見習うことばかりだったのです。また、彼女は、ユーモアのセンスも持ちあわせており、一緒に働く同僚たちの間には、常に笑いが絶えませんでした。
そんな従業員達の中睦まじい様子もあってか、お店は常に賑わい、混雑していたのです。しかし、そんな何の問題もないように思えるこのLuby'sでも、長年大きな壁にぶち当たっていたのです。
お客様は、十人十色
長い間、接客をしているともちろん色々なお客様に出会います。毎日同じ時間に同じ注文をしていくお客、特別な日に必ず家族連れで現われるお客、飲み物一杯で何時間も居座るお客など。
そして、もちろんいつも不機嫌だったり、苦情を言いつけるお客だっています。しかし、メリーナは、どんな時も笑顔で、冷静にその状況を判断し、対応してきました。そう、彼女にかかれば、ちょっとやそっとの気難しい客なんて問題ではないのです。ただ・・・
長年の常連客
そう、この男性の名前は、ウォルター。このLuby'sには、それはそれは気難しい年配の男性客ウォルターという名の常連客がいました。彼は、とてもせっかちで気が短く、隙あらば店員に失礼なことを言っていました。
従業員の間でも彼の話は有名で、誰もが彼のテーブルにつくのを嫌がりました。嫌がるというよりも、どうやって対応することが正解なのか、皆自信をなくしていたのです。そのため、彼が来ると誰が受け持つかいつも従業員同士でもめていたのです。そう、メリーナを除いて・・・
昼シフトの従業員は
そのうち、昼のシフトに入っている従業員は、彼が来ると誰もが忙しいふりをするようになり、彼を避けるようになりました。しかし、メリーナだけは違いました。彼女は、いつも嫌な顔一つせず、彼のテーブルに向かうのです。
彼女は、いつだってこの仕事を楽しみたいと思っており、この店に来る人には笑顔で帰っていって欲しいと思って接客していました。だからこそ、このなかなか難しいウォルターだって、大切な彼女のお客様にはなんら変わりはないのです。
ウォルターの習慣
彼は、ほぼ毎日Luby'sで昼食をとっていました。そして、毎日何が彼の気に召さないのか誰も予想することができませんでした。どんなに用意周到に彼の昼食を提供しても、何かしらに文句をつけるのです。
しかし、メリーナはそんな彼の特徴をつかみました。彼は、とにかくせっかちだったのです。提供時間が長ければ長いほど、その文句は、多くなっていることにメリーナは気づきました。さぁ、ここからが彼女の腕の見せ所です。
自分が変われば相手も変わる
この店の従業員歴が長いメリーナでさえ、毎回毎回不満を言われることがなんともない訳ではありませんでした。時には、もう少し怒りが爆発しそうなところまで、感情が揺さぶられることもありました。しかし、彼女は笑顔を忘れずに接し続けました。
そう、彼女の心の中で、自分が変われば相手の心も必ず変わる。だからこそ、相手のせいだけにしてはいけない。と何度も唱えるように考えていました。だからこそ、どんなにへこたれそうになっても、真摯にウォルターと向き合ったのです。
忙しいときも
待たされることが極端に嫌いなウォルターの特徴を掴んだメリーナは、忙しい時を除いて、なるべく彼をすぐに席に案内し、すぐに料理の提供が出来るように心がけました。しかし、だからといって、彼だけを特別扱いしたりするのではなく、あくまでも他の客たちとも平等に扱いました。
ただ、彼女は、ウォルターを気にかけるようになったのです。きっと、文句を言いながらも毎日ここに来るには彼なりの理由があるはずだ。少なからず、彼はここに何かを求めてやってくる、そう信じて接客を続けました。
ウォルターのこだわり
毎回、文句を言いながらもウォルターは、確かにここに来る理由がありました。それは、この店の昼食が大好きだったのです。ここの料理は、いわゆる昔ながらのアメリカンダイナー。おそらく、ベーコンや目玉焼き、ソーセージ、ポテトなどがのったプレートが好きだったのではないでしょうか?
しかし、この料理の提供時に、彼は最大のこだわりがありました。それは、必ずあっつあつの状態で提供されることです。彼は、猫舌とは無縁のとても温かい(むしろ熱過ぎる)くらいの料理の提供温度を好んでいたのです。
メリーナが密かに企んでいたこと
いろいろ試行錯誤しながら、ウォルターが通い始めて7年の月日が経過していました。メリーナは、彼の食事傾向、習慣を掴み、どうにかうまく彼を接客してきました。それでも、全てが完璧でない場合は、彼の怒りに触れることもありました。
ただ、メリーナにはウォルターに対して、どうしても達成したいことが心の中に密かにあったのです。それは、彼を笑顔にさせたいということです。いつも仏頂面の彼は、なかなか笑顔を見せることはありませんでした。そう、なかなかの難題だったのです・・
時間と共に・・・
時の流れは、人の心を溶かし、そして新たな関係性も育みます。メリーナの努力のかいがあり、彼女は、彼にとって完璧なサービスを提供できるようになっていたのです。そして、彼が来ると必ず笑顔で一日の様子や最近あったことを尋ねます。
それに対し、始めはぶつぶつと文句を言っていた彼も、次第にメリーナの笑顔につられて笑顔を見せることがありました。もしろん、毎日ではありませんでしたが、それでも以前のような仏頂面はどことなく緩んだように見えました。
周囲は不思議に
メリーナが接客している時は、笑顔まで魅せるウォルター。周囲の人からすれば、それは不思議で仕方なかったようです。従業員だけでなく、他の常連客をも彼女たちの様子を不思議な顔で見つめていました。
それほどまでに、彼女たちの関係性は有名でかつ不思議なものだったのです。多くの人が諦めかけていた彼への接客を、彼女は努力と月日と流れで変えてしまったのです。まさに、この店にとっては、見本のような接客でした。
ウォルターはどこへ
7年の間に、お店の中でも従業員は入れ替わっていきました。もはや、ウォルターが店に来始めた最初の頃を知る従業員は、メリーナ以外ほとんどいなくなっていました。新しい従業員達も彼女とウォルターの関係を何となく察していたので、他の誰かが接客することもありませんでした。
この時くらいから、毎日お店に通っていたウォルターに変化が現れます。それは、たまに来ない日が出来たのです。最初は、風邪でもひいたのかなと思っていましたが、徐々にお店に来ない日が頻繁に増えていくようになったのです・・・
心配するメリーナ
昼食時になってもやってこないウォルターに彼女は、疑問と不安が浮かびました。彼は、大丈夫なのだろうか、何かあったのではないだろうか、と。彼女以外の従業員に相談しても、良く知らない彼らからすれば、特に気にかけることではないというような答えばかりでした。
そう、メリーナの不安は、長年不思議な関係を続けてきたからこそ、より思い入れが強かったのです。始めは、そんな日もあるかと楽観的に捉えていた彼女でしたが、だんだんとその不安は、彼女の中で大きくなっていきました。
他の客の接客をしていても
メリーナの心配は、とても大きくなっていきました。時には、シフトを変更してまで、一日彼を待ち続けることもありました。ここでようやく、彼女自身も、ウォルターが来るのを毎日心待ちにしていたことに気づきました。
他のお客を接客していても、不安は消えません。どのお客様にも平等にがモットーの彼女でしたが、どうしても7年間という月日が、彼に肩入れせずにはいられない感情がぬぐえなかったのです。
ウォルターに何が
ウォルターは、89歳になっていました。しかし、どんな日でも、とても健康的でエネルギーに満ち溢れていました。そう、彼に健康上の問題があるとは到底思えなかったのです。また、ウォルターは気性の荒い性格から、他の同じ年代の人よりもはるかに多くのエネルギーを必要としていました。
そんなウォルターと接しながら、自分が年をとってもエネルギーに満ち溢れた人になりたいとメリーナは、思ったほどです。歳は大きく離れていたものの、彼女は彼から大きな活力をもらっていました。
連続して
とうとう、彼がお店に来ない日が何日か連続して続くようになりました。お店の中では、そんなこと誰も気にせず、いつものランチタイムが忙しなく流れていました。メリーナもその忙しさに集中していました。少しでも気を抜けば、彼のことが気になりミスをしてしまいそうだったのです。
従業員の中には、悪い冗談を言ってくる人もいました。メリーナは、笑っていましたが、正直2日間も来ない日が続いた今は、決して冗談には思えませんでした。彼らの冗談が余計にメリーナの不安を掻き立てました。
1週間が過ぎ・・・
不安でたまらない彼女でしたが、所詮は従業員とお客の関係。彼に電話をかける連絡先ですら、メリーナは知りませんでした。どこに住んでいるのか、誰と住んでいるのか、そのような話題は、プライバシーの関係から、避けていたのです。
なんの手掛かりもない彼女は、ウォルターのことを探すことが出来ません。困り果てたメリーナでしたが、さすがに1週間も顔を見せないのはおかしいと思い、頭を悩ませていた時、彼女は、あることに気づいたのです。
とある日の新聞
その日の朝は、いつもとなんら変わらない朝になる予定でした。いつものように開店準備をして、新しい新聞をお客様用のラックに入れて、さぁ今日はウォルターが来てくれるかなと考えていたところでした。
しかし、新聞の準備をしている時、なぜか胸騒ぎがして、どうしてもいつも見ない新聞を開いて見たのです。なんとなく彼女の本能が新聞を読めといっているような気がしました。そして、その新聞のとある記事を読んで、彼女は絶句しました。
衝撃の事実
その地元新聞の死亡欄のところに、彼の名前があったのです。メリーナは、目を疑いましたが、それは紛れのない事実でした。ここで、ここ数日のウォルターの様子と、お店に来なかった(来ることの出来なかった)理由が、全てつながったのです。
メリーナは、しばらくの間、放心状態でした。黙ったままその記事を見つめ、立ったままそこから動くことができませんでした。自分でも、ここまでの感情になることは予想だにしていなかったのです。
悲しみに明け暮れる
この訃報を聞いたメリーナは、しばらくの間、他の同僚も明らかに気付くほど落ち込んでいました。彼女がこんなに落ち込む姿を今まで誰も見たことがありませんでした。7年という月日は思ったよりも長く、ウォルターを接客している時間は、彼女にとっても特別な時間だったことに改めて気付いてしまったのです。
かつて、様々な言い合いをしたり、お馴染みの文句をいったりするウォルターは、もうそこにはいません。そして、これからも会うことがないのです。彼女は、悲しみに明け暮れましたが、ウォルターからのサプライズはこれだけではありませんでした。
止まってはいられない
メリーナは、とても大切な常連客を亡くしたことにより、一瞬この仕事を辞めてしまおうかという気さえ起こりました。ただ、人生は生き続けている限り、止まらないのです。メリーナ以外の従業員は、もう彼の不平不満を聞く必要がないので、心なしかほっとしているようにも見えました。
メリーナは、ウォルターの死を悲しみながらも、なんとか働き続けなければならないと必死でした。ただ、毎日ウォルターに似たような人がランチタイムにやってくると、彼のことを思い出すのでした。
人生を変える一本の電話
ウォルターのことを少しずつ素敵な思い出として自分の中で処理出来るようになり、メリーナはいつもの調子を取り戻そうとしていました。そんな時、彼女は全く知らない人から、ある一本の電話を受け取ったのです。
その電話は、レストランに直接かかってきました。奇跡的にも、メリーナは休憩中だったので、その電話を何気なくとりました。その電話の相手は、弁護士だったのです。そして、彼は、メリーナの名前を口にし、「彼女はいるか。」と尋ねました。
緊張の瞬間
その弁護士は、電話口がメリーナ本人であることを確認すると、次の瞬間信じられないことを口にしました。なんと彼は、ウォルターの弁護士だというのです。そして、その弁護士が更に発した言葉は、あまりにも衝撃的過ぎて、まったく頭に入ってこないのでした。
なんとウォルターは、メリーナに遺書を残したというのです。ウォルターの関係者から電話がかかってくることも、遺書が自分宛てに残されていたことも、あまりにも予想外で、彼女は、その事実を理解できないでいました。
弁護士とのミーティング
次の日、すぐにその遺書の内容を伝える為に弁護士とのミーティングが開かれました。彼女は、ウォルターとは、ただの店員とお客の関係で遺書に名前が入るほどの身に覚えがないのです。
そして同時に、彼の親戚や家族はどうなったのか、どうしているのか、この事実についてどう思っているのかが気になりました。電話をもらってからミーティングまで、頭がずっと混乱していて、仕事に集中するのも難しかったのです。
ウォルターが彼女に遺したもの
次の日に行われた弁護士とのミーティングで、彼女は更に涙することになるのです。なんと、ウォルターは、彼女に50,000ドル(約540万円)とビンテージカーを遺していたのです。彼女は、この事実が信じられませんでした。
彼女は、そんな高価なものをもらうほど、彼になにもしてあげられていないし、自分にはそんな価値があるとは、到底思えませんでした。そのため、この報告自体を信じることが出来なかったのです。
なぜ私に?
彼女は、少しの間考えてもこれらの高価な物をもらうわけにはいかないと考えました。そして、ウォルターまた、彼女がそのようにすることを知っていたのです。だからこそ、生前ではなく、遺言としてこのような贈り物を彼女に遺したのです。
そして、ウォルターの思いを弁護士伝いに聞いて、敬意を持って受け取ることに決めました。彼女は、何年も長い間真摯に彼と向き合い、この店の従業員として彼に立派に認められたような気持になりました。
ウォルターの気持ち
ウォルターは、7年の月日を経て、メリーナに笑顔を見せるようにはなっていましたが、だからといって、彼女に特別優しい言葉をかけたり、親切にするということはありませんでした。
おそらく、彼は不器用で気性が荒い性格なだけに、なかなか素直な感謝の気持ちを表すことができなかったのでしょう。ただ、メリーナが思っていたのと同じくらい、彼もLuby'sでの時間はかけがえない大切な時間だと思っていたようです。
メリーナの誓い
ウォルターからの遺言を受け取ってから、メリーナは更に、人のことを外見で決して判断してはいけないと強く思いました。一見気難しそうに見えても、こちらが態度を変え、常に真摯に一生懸命向き合うことができれば、その気持ちは相手にも必ず伝わるということです。
また、これからの人生、彼女自身ウォルターに恥じないように、常に笑顔で人に平等に胸をはって生きていけるような人生を送ろうと考えました。そして、どんな時も見返りを求めず正直に生きていきたいと思いました。
アメリカの遺言事情
このメリーナとウォルターの間に起こった出来事は、とても信じられないまるでドラマのような話にも思えますが、実はアメリカでは初めての出来事ではありません。仲の良かった店員にお客のひとりが遺産を渡したというのは、2015年にもあった出来事なのです。
ただ、そのお客はウォルターのような気難しいお客ではありませんでしたがね。人生何があるかわからないものです。自分に正直に人に優しく生きていきたいですね。