今、レンタルなんもしない人が日本で求められる理由とは
今、日本では”レンタルなにもしない人”という男性が話題を呼んでいるのはご存知だろうか?彼のその一見奇妙な活動内容は、ボランティアのようでもあり、人助けのような、広範囲にわたる。ただ、一つ言えるのは、彼はなにもしない。「なんもしない人(ぼく)を貸し出します。」というのが、彼から提示されている言葉だ。一体、”レンタルなんもしない人”とは何者なのだろうか。そして、今の日本は、なぜこのようなサービスが求められているのだろうか。
なんもしない人(ぼく)を貸し出します。
2018年6月、とある男性が下の面白いつぶやきをTwitter上で行なった。そのつぶやきは、次々とリツイートされ、一気に話題を呼ぶこととなった。
「『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数合わせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。ごく簡単なうけこたえ以外、なんもできかねます」
解釈や肩書きはその人次第
一体、彼にはどんな依頼が舞い込んだのだろうか。依頼の種類は、本当に様々であり、”部屋を掃除している間、家にいて欲しい”、”10年住んでいた街を離れるので、お見送り役をして欲しい”、”ピアノの練習をしている間、いて欲しい”などだ。
いずれも、ただそこにいて欲しい、いてくれるだけで変わる気がするという概念のもと、成り立っている気がする。しかし、彼からすれば「解釈や肩書きはなんでもいい、僕は必然的に求める解釈として提供されるだけ…」という。
耐えない依頼
何もしないのに、ツイッターで呟いた、たったあの言葉だけで、多くの人は、彼を必要とし、依頼してきた。そして、今や、この"レンタルなにもしない人"(通称:レンタルさん)は、メディアにも引っ張りだこだ。彼への依頼も、耐えることがない。
しかし、今まで、”一人で行きにくい場所なので一緒に行って欲しい”などの同行をお願いされることが多かったようだが、どうやら、最近は依頼者のメンタル問題に関する依頼も多く存在するようだ。
自分から異臭がする気がする
レンタルさんを取り上げたドキュメンタリーでは、ある女性の依頼に密着されていた。彼女は、おなら恐怖症という心身症と戦っていた。彼女は、人が周りにいると、おならをしているのではないかという概念に捉われ、不安で仕方がなくなってしまうという。
そこで彼女は、本当に臭いのか、臭くないのか、普段は絶対に緊張してしまう状況をあえて作り出し、レンタルさんに確認して欲しいと依頼したのだ。カフェなどで真後ろに座ったり、電車で真横に座ったりして、その匂いを検証してもらうように依頼した。
なぜレンタルさんなのか
彼女のようなメンタル的な問題は、とてもセンシティブな内容である。知り合いでもない、会ったこともない彼に、彼女はなぜ依頼したのだろうか。
彼女によると、家族でも友達でもない、見知らぬ人が正直に話してくれることで、その言葉を信じられると思ったという。どんなに友人に、「臭くない」と言われても、本当のことを隠しているような気がして、信用することができなかったそうだ。つまりは、利害関係が発生しない相手だからこそ、意味があったのだろう。
本当に何もしないのか
彼のこのビジネスは、Twitterだけでは止まらず、ついには書籍化した。それほどまでに、彼に多くの人が興味を持っているということだろう。しかし、なにもしないというのは、意外と難しいのではないだろうか?
多くの場合、他人に何かしら頼まれたら、間を持たせようとしたり、お世辞を言ったりと、気を遣ってしまったりすることが、日本人の性であると思う。しかし彼は、こう言ったことを一切しない。聞かれたら、何か答えるが、頼まれたことをただ黙々と行う(その場にいる)。ただそれだけだ。自分からは、何もしない。本当に言葉の通り、”何もしない”のだ。
レンタルさんの女装がイケてる!?
レンタルさんへの依頼は、奇抜なものも多い。最近、多くのリツイートがあった投稿に、レンタルさんの女装姿が映し出されているものがあった。依頼主の女性は、女装メイクで一緒にプリクラを撮って欲しいという依頼だった。
この女装姿は、多くの人から「かわいい」「美形」「めちゃくちゃクオリティー高い」との声が上がった。もはや、なんでもやらされてる人になってる?笑
レンタルさんへのメンタルの影響は?
奇抜な依頼の中には、時に聞いているこちらが、気分が滅入るようなものもある。レンタルさんは、時に自分が”サイコパス”なのではないかと疑う時もあるという。というのも、彼は、人への共感能力が著しく低いという。他人の悲しい話や、犯罪を犯してしまった話を聞いても、同情したり、気持ちが滅入ったりすることはほぼなく、むしろ「いいネタになる、いい話を聞いた」と嬉しくなるそう。
だからこそ、このような辛辣な依頼も、特に自身の心理に影響はないようだ。ただ、”人間としては終わっている”と周囲からは、叩かれる点でもあるそうだ。
批判や侮辱
多くの依頼が押し寄せる中、彼が、『ザ・ノンフィクション』でドキュメンタリー化されたことにより、周囲からの反響は、より大きなものとなった。彼のこのようなサービスを応援する声もあれば、もちろん批判の声も多く集まったのだ。
"いい年齢なのに定職につかず、こんなサービスするなんてありえない”、”ただのヒモじゃん”、”正気じゃない”などの賛否両論の声。しかし、彼は今までなかったものを世に作ったのだから、批判者が現れるのも当然のように思う。新しいものは、必ずどこかで批判されてしまうのだ。
なにもしないけど、適格な受け答え
レンタルさんへの誹謗中傷も高まる一方で、リピーターも増えている。どうやら、彼のその魅力は、なにもしないけど、その受け答えにもあったようだ。
レンタルさんに依頼をした、ある女性によると、「特にアドバイスとかしてくれるわけではないけど、その表情や、受け答えが適切。」「否定も肯定もしない態度が逆に安心させてくれる。」という声が上がっている。レンタルさんが人気なのは、彼自身にも何らかの魅力があるのだろう。
価格の改定
しかし、レンタルさんが多くの批判を集めた、最も多くの理由が、彼には妻子がいるが、仕事に就いていなかったことである。その事実が、彼のサービスへの批判を助長させた。要は、養うべき家族がいるのに、何もせずに収入を得ていないということが、批判の対象となったのである。
そして、現在は妻子と別居していることから、”養育費を入れるべき”との声が相次いだ。この声を受け、ドキュメンタリー放送後、今まで交通費と諸経費だけだったのを、1万円をプラスするという価格改定を行った。
悩んだ幼少期時代
彼は名古屋生まれで、3人兄弟の末っ子だという。幼少期は、ごく普通の子だったというが、とあるインタビューに、幼少期は暗かったと話している。実は幼い頃、彼はアトピー性皮膚炎に悩まされた。特に、手などのアトピーがひどく、いつも袖を持って隠していたという。
しかし、体育の時間にその様子を、先生に注意されたり、顔への症状もひどかったので、いつもうつむき加減だったことから、周りからは「暗いやつ」と思われていたと話す。このように、幼少期時代から、悩み続けてきたレンタルさん。
何もしないことが向いている
”何もしないことが向いていると思った”と話す彼は、学生時代のことをこう振り返る。「学生時代、僕はぺーパーテストのような個人プレーでは優等生でした。しかし、集団の中に入ると、何をしていいか分からなくウロウロしていた。」という。
「自分は”やってる”つもりでも、結局何もできていない、むしろ邪魔をしているという感覚が積もっていくと、自分は”なんもしない”ほうがいいんだと考えるようになる。」と彼はあるインタビューに答えている。
固定される人間関係への窮屈さ
今でこそ、何もしていないことをサービスとしている彼だが、かつては、彼も就職していた。大阪大学の大学院を卒業後、通信教育の教材を作る仕事を3年はしていたそうだ。しかし、毎日、同じ人と同じように顔を合わせるのが辛く、チームプレイに向いていないことで、その仕事に限界を感じたそうだ。
仕事は、多かれ少なかれ、誰かと共同で行う作業が発生する。単独で作業するのは、なかなか難しい。また、人間関係の固定が苦しいと話す彼の場合、普通の会社員のような仕事は、窮屈に感じたのだろう。
マネする人が続出
そして今、このレンタルさんのサービスは、真似する人が続出中である。「レンタルなんもしない人」と、検索をかけるだけで、多くのアカウントが表示される。
ほとんどが、レンタルさんのシステムをそのまま利用したものだが、中には「話を聞く人」などとサービスを限定していたり、ある特定の地方のみだけで活動していたりするアカウントもある。しかし、フォロワー数や依頼数は、本家のレンタルさんを越えるものはないだろう。
心の隙間
では、なぜ今このようなレンタルさんのサービスが、日本では受けるのだろうか。多くの原因や背景が関連しているとは思うが、多くは、他人との距離感の変化と多様性の尊重文化ではないだろうか。
現代では、インターネットなどの世界で簡単に人と繋がることができる一方で、現実の世界での人と人の距離感は、一定間距離がある。そして、それは心地良いと感じる時もあれば、ふと寂しくなることもあるだろう。また、ここ数年での個々の多様性は、より複雑化しており、その個人の違いが、周りにも尊重される文化に変化してきている。つまりは、その他人との距離を少しだけ埋めてくれるのが、レンタルさんのような存在であり、またレンタルさんのような存在も、周囲に受け入れられやすくなっているのではないだろうか。
信頼関係で成り立つサービス
もう一つのこのサービスの特徴は、人の信頼関係で契約(約束)が成り立つということだ。依頼は、全てがTwitter上で完結している。そして、依頼する人も彼の評判をTwitter上で見て、依頼するのだ。
リピーターも今でこそ増えてはいるが、最初はどちらも初対面の状態である。レンタルさん自身も依頼の承諾には、かなり気を付けているようですが、レンタルさんに危険が及ぶ可能性だって高い。昨今では、インターネット上の出会いなどが危険視されている中、このような人と人との信頼関係が生み出すサービスは、革新的であるとも言える。
一人が好き、孤独は寂しい
日本の現在の未婚率は、年々上昇している。そして、20年後には、未婚率は4割を越えると言われている。しかし、一人になる機会が多ければ多いほど、人は悩みを生み出し、周りから必要とされているのか、確かめたくなる。
結婚や家族などの縛りは求めないが、でもやはり孤独は寂しい、と感じる人も多いのだ。レンタルさんに依頼する人は、そのような一人では解決できない悩みを解決したり、短時間だけ誰かと、ただ時を過ごしたいというような都合の良い気持ちも、解決してくれるのだろう。
レンタルさんは、現代の人を救っている?
メディアにも引っ張りだこのレンタルさんだが、最近は講演会などにもゲストとして出演している記事を良く見かける。おそらく、レンタルさんに依頼するだけではなく、彼のその人柄、生き方にも興味を持つ人が多いのだろう。
何でもしたい、何でもできるこの時代に、あえて”なにもしない”ことを選択した彼。しかし、そこには共感する人、そのなにもしない事によって救われる人が多数存在した。彼のしてる事に、賛否両論はあるだろうが、少なからず救われている人がいることを、忘れてはならない。
レンタルさんの今後
今後の活動について、レンタルさん自身は、「飽きるか、飽きられるか、貯金が尽きるか、妻に止められるか」だと語っている。確かに、今はかなりの話題を読んでいるが、このサービスが今後も続く保証はない。
ただ、人生の生きづらさを感じて言いた彼自身が、納得して面白いと思う、生き易いと思う生活にし、実現してくれることで、きっとまた救われる人も多いのではないだろうか。これからも彼は、何か面白いことを生み出してくれそうだ。