カップルがスクールバスを夢のマイホームに改造したその全貌とは
ドイツのベルリン出身のフェリックス・スタルクとセリマ・タイビは、平凡な生活を抜け出して、何か変わったことがしたいと思っていた。フェリックスは映像作家で、セリマはモグリという芸名で、ミュージシャンとして作曲活動をしていた。二人は、一ヶ所にとどまることなく世界を旅行し、お互いに切磋琢磨しながら暮らしていた。フェリックスとセリマは、いつか2人でアメリカ大陸を旅行し、素晴らしい自然の中で暮らすことを夢見ていた。そんな彼らを夢想家だと思う人もいるだろうが、2人は決して夢見ているだけではなかったのだ。2人は夢を実現すべく、ある計画を立て始める。さて、2人の旅は、どのように変化していったのだろうか。「幸せの探検」の旅に出た、彼らの話をご紹介しよう。
いざ、一生に一度の冒険に向けて
フェリックスとセリマは、きちんと準備をして旅に出るにあたって、スクールバスを改造して家にするのが一番いいと考えた。そうすれば、旅の道中にも、宿を探す必要がなく、家ごと移動できるからだ。
中にはこうしたライフスタイルを極端すぎるアイディアだと考える人もいるだろうが、この冒険好きな2人にとっては、最高のアイデアだった。そこで2人は、ベルリンにいるときから、アメリカにあるスクールバスがないか探し始める。
バスにはかなりの修復作業が必要だった
幸運にも、2人が探している条件にぴったりのバスが見つかった。だが、そのバスに施さなければならないことは山積みだった。バスの状態は、お世辞にも良いとは言えず、住めるように改造する以前に、たくさん修復すべき箇所があったのだ。
2人は、これから始まる冒険に向けて、ソーシャルメディアのアカウントを作っていたが、そのソーシャルメディアには、当時このように投稿している。「昨日、バスの床張りをすべて引っぺがしました。すると、床に大きな穴が開いていたんです。バスの至るところも錆びついていますが、まぁ、ドイツにいながらフロリダにあるバスを買ったんだから、こんな問題やリスクがあるのも当然と言えば当然です。」
すべてを自分達の手で
そう、フェリックスとセリマは、修復作業も、バスの改造も、すべて自分達でやる心づもりだった!アメリカに到着してすぐの2人のやるべきことは、旅に出られるようにバスの装備を整えることだった。セリマがバスの至るところに貼ってある古いシールをはがす作業をする一方で、フェリックスは床の板張りを張り替える作業をした。
元々スクールバスは、キャンピングカーのように人が住めるように設計されていない。そのため、手を加えなければならないところはたくさんあった。2人は雪の中も旅する予定でいたため、断熱材も入れることにした。「今日は、床の下張りと断熱材を入れる作業をしました!」と、作業の様子もソーシャルメディアに投稿している。
錆を取り除くことを優先
2人は9,500米ドルでスクールバスを購入した。二人は、このバスをオンラインで見つけ、アメリカ行きの航空券を予約するより先に購入したのだ。実際に確認すると、あちこちが錆びついており、床に穴が開いていることにガッカリしつつも、気持ちを前向きに保ち、真正面からこの修復・改造プロジェクトに立ち向かわなければならないことを理解していた。
フェリックスは、こうも投稿している。「昨日、もっと錆びついている箇所を見つけました。穴に金属板を張りつけて直さなければなりませんが、その前に、まずは錆をこそぎとらなければなりません。」
先輩を見つける
結局のところ、2人は非常に楽観的だったが、どちらも大工仕事の経験もなければ、錆取りや床の修復などに必要な技術を持っていなかった。しかし、幸運にも、フロリダ州から近いノースカロライナ州に住むカップルと繋がり、彼らに助言をもらうことが出来た。
実は、そのカップルは、自分達でスクールバスを改造した経験を持っており、その経験から得られた貴重な知識をフェリックスとセリマに教えてくれたのだ。早速そのカプルから仕入れた情報をもとに、必要なツールを手にすると、まるで自然に体が動くかのようだった。フェリックスは「モグリがベッドを作りました…おそらく、やり方を知らなかっただけで、大したことではなかったのでしょう!」と、少し自慢げだ。
ルディを入れて3人!?
確かにスクールバスの修復や改造作業は手伝っていないかもしれないが、バーニーズ・マウンテン・ドッグのルディも、この2人と一緒に最高の冒険に出かける準備はできていた。大型犬のルディは場所を取るため、購入したのが小さい車ではなく、大きなスクールバスで良かった!
フェリックスとセリマは、ルディを旅に連れて行き、雪がどんなものなのかを見せてやれることにワクワクしていた。2人はソーシャルメディアのフォロワーに、ルディは、2人のインスピレーションの源であり、これからの旅をよりワクワクさせてくれる存在だと伝えている。
キッチンから取りかかる
ベッドフレームが出来上がると、2人はキッチンに取りかかった。スクールバスの形は独特、つまり幅は狭くて、縦に長いことから、少しでも有効にスペースを活用できるよう、慎重に計画を練らなければならなかった。
バスのような狭い空間においては、すべてを機能的に設計し、空間を最大限に有効活用できるようにすることが重要だ。しかし、キャビネットを備え付けると、この改造プロジェクトの進捗も満足のいくものに思えてきた。
トイレが広く感じられるように
キッチンが仕上がってくるにつれ、トイレもできてきた。フェリックスは、セリマがトイレ設置予定の場所に座っている写真を投稿し、その説明に「小っちゃいトイレの壁を塗装しています」と書いた。その時、平均的な家庭にあるトイレよりも、ずっと小さくなってしまったことに気づいた2人は、何とか工夫しようと試みた。
セリマは、トイレの空間をより広く見せるため白く塗り、さらに家のような雰囲気を出すために手作りのタイルを付けた。この一連の作業の中でも、2人は物事をポジティブにとらえ、互いを励まし、やる気を維持した。
ペンキ塗りたて
バスの中が出来上がってくると、お次は外見のお色直しだ。冒険好きな2人はスクールバスが最高の家になると信じているものの、その見た目から、子どもらを学校に乗せていくバスと間違えられたくはなかった。
フェリックスとセリマは、スクールバスの外観を白くすることに決めた。がしかし…「グレー!白く塗ったはずがグレーになりました!」とフォロワーに伝えている。しかし、グレーになってしまったことについて、特に心配していない2人はとりあえず白くペンキを塗り続けた。「黒かった部分はクリーム色にしよう」と、フェリックスは決めたようだ。
オフィス・キッチン
段々と内装は完成に近づき、バスはかつての黄色いスクールバスのようではなくなってきた。もう、これは家だ。バスの間取りを設計するときに、フェリックスとセリマは、両側の壁に沿って、カウンターを長くとることに決めていた。
片側がキッチンで、調理をするカウンタースペースが十分にある。反対側は、2人がそれぞれ仕事できるような作業スペースだ。こうすることで、フェリックスは映像を編集でき、セリマは音楽活動に取り組むことができるばかりか、旅の内容をソーシャルメディアにアップデートすることもできる。
寝室は後方に
間取りを決めているときに、もう一つ重要となったエリアは、もちろん寝室だ。2人は寝室をバス後方の、静かで、他のすべてのことから離れられるプライベートな空間に置いた。
そして、セリマが作ったこのベッドを見てみよう!美しいデザインに、綺麗な仕上がり!フェリックスにもセリマにも、これまでに家具を作った経験がまったくないなどとは信じられないほどの出来栄えだ。
物置と電源
たくさんの照明や電気器具を搭載していることから、どのようにして2人が電力を得ているのかと不思議に思っている人もいるかもしれない。フェリックスはフォロワーにバスの後部を少し公開している。そこは電源室となっており、電力を得るために送電系統にプラグを差し込めるようになっている。
しかしながら、2人は可能な限り、バスの屋根に取り付けた太陽光発電パネルから電力を得ている。こうすることで、旅の道中でのコストを下げているのだ。というのも、どうしたってバスは燃費が悪いのだから!
ルディの居場所も
フェリックスとセリマは、自分達用に快適なベッドをバスの後方に設置したが、バーニーズ・マウンテン・ドッグのルディはどうだろうか。もちろん、ルディにも用意されている。実際、バスの前方に、この大型犬用のベッドを置くスペースがあるのだ。
こうすることで、車が出発しても、ルディはちょうどいい場所にいることになる。ルディには、犬用のボウルを置くためにちょうどいい高さにしたテーブルまである。犬にとっても夢のような家だ。
賢く収納
バスを生活空間へと改造するにあたって、2人はどうやって自分達の持ち物を収納することができるかについて、慎重に検討した。2人にとって、服やその他道具を収納するスペースを十分に確保することは大切なことだった。
そこでソファを深めに作り、その中に十分な収納スペースを取れるようにし、たとえばセリマの楽器などはバスの奥にしまった。こうすることで、バスの中をきちんと片付けることができたのだ。
お次はインテリアデザイン
すべて必要なものを備えたバスが出来上がると(こんなに素敵なバスになるなんて!)、次に2人はバスではなく、もっと家らしく感じられるように、内装の細かな部分を施していった。2人はどちらもアーティストで芸術的であるため、創造性の向くままにデザインした。
2人は「LIVE SIMPLY(シンプルに生きる)」と書かれた壁掛けを飾ることにした。が、この2人の旅がすべてシンプルだったかといえば、実際のところそうではないかもしれない。そこには、自分達の望むライフスタイルを実現するために、懸命に努力してきたという背景があるからだ。
出発の準備は完了!
スクールバスを購入し、快適な家に改造した後、若い2人はアメリカ全土を見るために出発する準備ができていた。
「12週間も毎日バスを修理・改造するために費やした今、この美しい車を南アメリカまで運転していく準備ができました。」とソーシャルメディアにも投稿している。アラスカからアルゼンチンまで、見たいものすべてを見る気でいたものの、2人は慎重に計画を絞った。「そこまで遠くへ行けるかな…分からない、多分行けないかもしれない。でも、僕たちは旅を楽しめるかって?それは、間違いない!」
探検: 幸せは「GO」
大喜びで出発した2人は、この旅を「幸せの探検」と名付けた。スクールバスを改造する段階から、ソーシャルメディアでは、たくさんのフォロワーがついていた2人だが、生涯に一度の旅に繰り出した2人には、さらに多くのフォロワーがついていた。
2人は、初めにカナダに向かうことに決めた。フェリックスとセリマは、自然の中の雄大な山々を見ることに狙いを定めていたのだ。犬のルディは、目的地に着いたときに何を目にすることになるのかなんて、もちろん、まったく知る由もなかった。
最初の訪問地: カナダのバンフ国立公園
2人と1匹は旅に繰り出し、最初の訪問地、バンフ国立公園に無事到着した。この国立公園は北アメリカでも雄大な自然に触れられることで知られている。そして2人は、それを直に体験したいと考えていたのだ。
到着すると、フェリックスはこう投稿している。「バンフ国立公園、最高!モグリは日差しをいっぱい浴びて日光浴を楽しんでいるし、僕とルディは散歩を楽しんでいます。」移動しながらの車中生活も、うまくいっているようだ。
ルディは夢のような犬の生活を送る
写真をご覧ください!目的地に到着して、初めて雪を見たときのルディの反応といったら、それはもう何事にも代えられないほどだった。視界に雄大な自然が広がる中、ルディは思い切り自由に走り回り、犬にとっては夢のような体験をしたのだ。
北アメリカの素晴らしい場所を、大好きな2人のそばで一緒に見て回れるなんて、ルディにとってはどれほど幸運なことだろう!バーニーズ・マウンテン・ドッグは、カナダでは水を得た魚のようだった。
アラスカのデナリ国立公園
カナダのバンフ国立公園で思いっきり楽しんだ後、フェリックスとセリマは、もっと北のアラスカに向かうことにした。このころには、素晴らしいドライブでの旅は順調そのもので、すべてがうまくいっているようだった。すべてが計画通りに進み、2人はバスを一歩でると自然に囲まれているといった体験ができた。
デナリ国立公園に到着する頃には、バスの中では手作りのチョコレートクロワッサンが焼きあがっていた。その焼き立てのクロワッサンを片手に、北アメリカで最も高い山を見るなんて、本当に、人生はなんて素晴らしいんだろう!
カリフォルニアのデスヴァレー
若い2人は、何も雪だけを見るためだけに旅をしているわけではなかった。アラスカに行った後には、南へ舵を取り、太平洋北西部の森や、カリフォルニアのビーチを通った。そこから内陸部に向かい、デスヴァレーに到着した。2人はアラスカの雪山との違いに圧倒されて感銘を受けていたものの、ルディは暑さにうまく対応できないようだった。
幸い、そんなルディも時間が経つと、徐々に体調を取り戻していった。「(これまでのところ)デスヴァレーは、最も感動的な場所の1つです。ルディもだいぶ暑さに慣れ始めてきたようです。」と綴っている。
モグリ、メキシコで作曲
デスヴァレーを出てからも、2人は南へと向かった。そしてメキシコの温かい気候と海に到着した。旅の道中ずっと、モグリことセリマは作曲をしていた。その後モグリは作曲した曲をフェリックスの動画と合わせ、共同作品としてのドキュメンタリーを作った。
フェリックスは「旅の道中で、モグリは素晴らしい曲を作っていました。」と明かしている。この映像を見ると、バスで移動しながらの「幸せの探検」が羨ましくなるほどだ。
急展開を迎える
フェリックスとセリマがバンフ、デナリ、カリフォルニアの海岸やデスヴァレーなど、ロードトリップを満喫している一方、旅を十分に楽しめていない者もいた。それは、ルディだ。
バーニーズ・マウンテン・ドッグは、あまりの暑さにやられていたのだ。そればかりか、道中で足の手術もしなければならなかった。フェリックスは「ルディの状態は深刻です(今は入院しています)。僕らにとっては、ルディの健康と幸せが一番大切なことだから、非常に残念だけれど、僕らは旅を中断しないといけないようです。」と投稿している。
バスを売りに出す
フォロワーにとっては、衝撃的なことだったが、フェリックスとセリマは自分達の直感を信じ、メキシコで自分達の「幸せの探検」を終えることが最良の選択だと考えた。南アメリカへも足をのばしたかった気持ちは山々だったが、それは最愛の犬を犠牲にしなければならず、2人にはとてもそんなことはできなかった。そこで、夢のマイホームだったバスを売りに出した。
バスにかけた労力や時間は、まったくの無駄ではなかった。望み通り北アメリカを体験し、何とも嬉しいことに、二人のバスを購入した人も、そのバスを使ってメキシコに向かおうとしていたのだ!「結局のところ、僕らが乗っていなくても、僕らのバスは目指していた場所に着くことになりそうです。」と綴っている。
得た教訓
この素晴らしいカップルは、旅を通じて多くの見識や知恵を得た。この旅から得られた経験を心に刻み、行けなかった場所については諦めることとした。バスを改造し、素晴らしい家に仕上げただけでなく、そのバスを運転して3ヶ国を旅し、さらにはその体験をフォロワーらともシェアできたのだ。
旅を通じて撮影した写真や動画を使ってフェリックスがドキュメンタリーを作成する一方で、セリマは作曲した音楽を演奏して録音し、それをサウンドトラックにした。次なる探検は、「幸せは永遠に生き続ける」だ。
旅を反映させる
ベルリンからのカップルが、このロードトリップで学んだことは、”人は必要だと思い込んでいるよりも、ずっと少ないものだけで幸せに生活していける”ということだった。普通の家でも幸せに暮らせはするが、この2人は自分達で家を作った。そして、その出来映えは素晴らしかった。
この旅の様子はフェイスブックやインスタグラム、YouTube、さらには自分達のドキュメンタリーを通じてシェアされた。2人は自分達だけのユニークなロードトリップを始める前、そして、完了した後も、多くのことを達成したのだった。
賢く、美しいデザイン
2人の成し遂げた偉業をもう一度振り返っても、本当に素晴らしい事ばかりだ。これまでにバスを改造した経験や、家具を作った経験がまったくないにもかかわらず、フェリックスとセリマは、世界中の人々が感心するほどの生活空間を作り上げたのだ。
機能的でありながらも、暮らすにあたって内装が美しく仕上がるように、設計は、すべてにおいて賢い選択をした。その上、細部にわたって、大陸中を旅できるよう設計することも忘れなかった。こんなにもうまく仕上がることを、果たして2人は想像していたのだろうか。
待ち構える新たな冒険
フェリックスとセリマは、バスの改造に大成功し、ベルリンとは違う大陸で3ヶ国を旅した。2人は「幸せの探検」ドキュメンタリーを作成し、バスを売却した。次は何だろう。
もちろん、次なる冒険だ!最初のプロジェクトを終え、自信をつけた2人は、新しくワクワクできることを見つけた。フェリックスは世界を自転車で回る、自転車の旅に出ることにしたのだ。もちろん、セリマはサウンドトラックを作成し、その撮影された動画はドイツで何年もの間、何度も視聴される人気の動画となった。
旅で得られたすべての美しさ
スクールバスの旅を思い返しても、ちっとも後悔するところなどない。フェリックスとセリマは、北アメリカ中のどこに行こうとも、泊まる宿を探すことなく旅をしたいと考えていた。そしてそのための良い方法を思いつき、実行に移したのだから。
バンフやデナリ国立公園の森の中にバスを停め、そこで寝たことは、決して忘れられない思い出だ。自分達の手で作り上げたシンプルな生活も忘れられないし、得られた体験すべてを通して愛を深めたことも忘れることはないだろう。
達成した目標
この映像作家とミュージシャンの経験から得られる教訓は、”手が届かないものなど何もなく、大き過ぎる夢”というのもないということだ。2人の計画が突飛すぎて、実現は難しいのではないかと考えた人もいただろうが、2人は諦めなかった。そして結果、2人は自分達でスクールバスをマイホームに作り替えることができたのだった。
今や旅は終わり、素晴らしい思い出だけが残った。「375日前、僕らはスクールバスを購入し、望み通りに改造しました…。これは確実に、生涯忘れられない旅になりました。」と2人は綴っている。
男が42台のスクールバスを地下に埋めた素晴らしい理由
カナダの片田舎の雪に覆われた地面の下には、まったく思いもよらないものが隠されている。そのことを知っている人はほとんどおらず、実際に見たことがある人もほとんどいない。それにもかかわらず、地元当局はこの男の変わった行動を止めようとしていた。
83歳の男、ブルース・ビーチは、完全な好奇心から、スクールバスを地中に埋め、地下に入り組んだ迷路を作ろうとしていた。そして最近になって、この素晴らしい作品とその理由を公開することにしたのだ。
狂気の裏に隠された動機
野原が広がるカンザスの田舎出身の男が、どうしてカナダの田舎で、雪の中にスクールバスを埋めることになったのだろうか。年老いた男、ブルースは時代の産物だった。若かりし頃には、ベトナム戦争で血なまぐさい場面を目撃し、後には冷戦時代に起こった国家間の緊張を体験している。
ブルースは、当時の時代が作り上げた恐怖の被害者だった。妻や子どもらと共に、安全な暮らしを求めて、雪深いカナダに向かったのだ。
ブルースにとってこの世で最も安全な場所
1970年代、ブルースの家族は、ホーニングスミルと呼ばれる、ブルースの妻の実家がある村へと移住した。この村はオンタリオの近くで、トロントまで車で90分程度の距離に位置していた。
ブルースには、カナダで新しい生活を始めるにあたって、壮大な計画があった。ブルース自身と家族ができる限り安全に暮らせるようにしたいと考えており、その大きな野望のためには、ホーニングスミルが世界中で最も最適な場所だと確信していた。
計画の実行
1980年代の始まりから半ばにかけて、ブルースは壮大な計画を実現するべく、少しずつ行動に移した。初めに、古くなったスクールバスを集め始め、最後には合計で42台も集めることになったのだ。
この古くて使えなくなったスクールバスは、平均して1台あたりおよそ300ドルだった。決して安くはないし、ブルースも軽い気持ちでとった行動などではなかった。購入したスクールバスは、ブルースの家まで搬送された。古くなったスクールバスをたくさん集めて何をしようとしているのか、または、それらをどこに置くのか、誰にもまったく分からなかったが、ブルースだけは、これらを使って何をすべきかはっきりと計画していたのだ。
どうしてスクールバスなのか
ブルースは、壮大な計画のために、他の様々な車両を選ぶこともできたはずだった。彼は、あるはっきりとした理由からスクールバスを選んでいたのだった。本来の役割である、子どもらを乗せて安全に学校に運ぶという目的から、スクールバスの屋根は、鋼鉄で補強されている。
そして、この補強があるためにスクールバスを地中に埋めても、土の重さに耐えられるのだ。さらに、スクールバスは大きいため、車内は広々としており、人や物を乗せることができる。
次のステップは
ブルースの基本計画の次なるステップは、かなり困難なものだった。つまり、12.5エーカーもの広大な土地を必要としたのだった。かなりの数のボランティアスタッフの手助けを借りて、ブルースは42台ものバスを入れる大きな穴を掘り始めたのだ。
バスが穴の中に移されると、ブルースはすべてのバスを互いに隣り合うようにうまく配置し、部屋や収納スペースを確保した。しかしながら、これで完了したわけではない。
二度と日の光を見ることはないだろう
ブルースのバスで作ったシェルターは、ついにカナダの地面深くに並べられた後、外部の脅威をものともしない状態にするために、次のステップに進むこととなった。バスで作った迷宮を型のようにして、ブルースは全体に2フィートのコンクリートを打設した。
さらに、ブルースは打設したコンクリートの上を14フィートもの土で覆った。そのシェルターの様子は、外から見ただけではまったく分からなかった。ブルースが計画している壮大な構造物がどのくらいの大きさなのかを知れば、おそらくみんな驚くことだろう。
なんと1万平方フィート
ブルースの人生をかけたプロジェクトの工事は、完全に完了してはいないものの、工事の最初の段階は無事に終えることが出来た。なんと原子爆弾にも耐えられるこの地下要塞の広さは、全体で1万平方フィートにも及んだ。
これは事実、北アメリカで最大の地下構造物である。この大きな空間には、500人もの人々が窮屈な思いをすることなく入ることができ、たとえば原子爆弾やその他の災害などがあった場合にも、十分に生き延びることができる。ブルースはこの構造物を「箱舟2号」と呼んだ。
1人の男が、どうやって達成することができたのだろうか
1人の男性がこうしたすべてのことを、1人で成すことは決して難しかったであろう。このシェルターが大きな穴に並べられたスクールバスでできていることを考えても、信じられないかもしれないが、箱舟2号は構造的に堅固である。これはブルースがエンジニアと共にプロジェクトに取り組んだためだ。
実際、ブルースによると、トロントの地下鉄システムを建設した構造工学エンジニアが箱舟2号の完成を監督したのだという。トロントは、カナダの中でも最大都市でもあり、毎日多くの通勤者を安全に運んでいる。構造工学エンジニアは、まさにぴったりのエキスパートだったのである。
友人にも若干助けられ
さらに、ブルースは箱舟2号の建設に助けを求めた。ホーニングスミルの近くに住む、少なくとも50人のボランティアが週末にやってきて、計画だけでなく、重労働まで行ってくれた。さらに、もっと多くの人が、このバスの迷宮を維持、改善するために手伝い続けてくれている。
なぜ、「奇人」、「変人」などと呼ばれている人のプロジェクトを手伝うために、こんなに多くの人がボランティアをしてくれたのだろうか。その理由は以下で明かされる。
重労働をしたボランティアスタッフには、入場を保証
ブルースは、箱舟の建設を手伝った人は、災害などの有事の際に、必ず箱舟2号に入場することができるとしていた。また、近くに住み、作業を手伝う希望者には、ブルース・ビーチの安全なシェルター内に自分達の避難場所を確保することができるとしていた。
ボランティアスタッフらは、毎年数週間ほど、改修工事や定期的なメンテナンス作業を含む、シェルター周りの外構工事を手伝うことができる。これは災害が起こったときに、安全な避難場所が約束されていると思えば、安い料金だった。そしてブルースは、箱舟2号が必要となる時が来ると確信している。
箱舟2号の内部
箱舟2号と呼ばれる巨大な構造物の中には、どうやって入るのだろうか。シェルターへの入場が保証されている人たちは、地上に見える唯一の構造物である、錆びついた小さな扉から中に入ることができる。その扉の両側には盛り土がされ、発電機が備え付けられている。
扉を入ると、14フィートも土の中を下りていき、コンクリート構造物に行きつく。そこまでいくと、地下に埋まっていたのが何だったのかが分かる。バスで作られた素晴らしい迷宮の中に装備されている予想外の機能についてご紹介しよう。
無菌環境が健康のカギとなる
シェルターが必要となるような有事の際には、箱舟2号に入りたい人が多数いることだろう。しかし、ブルースは誰が入れるのかについて慎重に検討しなければならない。
万が一にも感染する病気にかかった人が入った場合、その他の避難者にとって致命傷になりうるからだ。また、一見すると健康そうに見える人が実は重病にかかっている場合もある。常に計画的なブルースは、こうした問題にも解決策を用意していた。
入場前にスクリーニングし、入場可否が決められる
緊急事態または災害が起き、ブルースのシェルターに入ろうとする人には、シャワーだけでなく、厳しいスクリーニング検査が待ち受けている。そして、シェルターには、この目的のための特別汚染浄化室まで用意されているのだ。
シェルターに入ろうとする人は、必ずこの部屋を通らなければならないようになっている。この部屋にはステンレス製のシンクが2つあり、シャワーとは別に(子どもや障害者向けに)浴槽、さらには食品やその他の異物を除染する特別室まで備え付けられている。
生きるために必要な基本的ニーズは、すべて網羅されている
この放射能避難シェルターで避難者らが生きていく上で、電気、配管系統、水などは、基本的なニーズを満たすために必要となるものだ。ブルースは箱舟2号を綿密にデザインし、これらのニーズを賄っている。ディーゼル発電機や、3ヶ月分の燃料も配備されている。
もちろん、モーテルに備え付けられているのと同じくらいの大きさの浄化槽や、飲料水を供給するための私設井戸を含む、上下水の配管システムもある。緊急時には、汚染の可能性があるため、外からの水に頼ることはできないからだ。
箱舟2号に、他のプレッパーも脱帽
「プレッパー」は、未曾有の災害や緊急事態が可能性としてではなく、起こりそうだと考え、それに備える人々のことをいう。そのため、プレッパーは不可避だと考える事態に備えるために、膨大な時間やお金をかけるのだ。オンタリオのプレッパーサバイバルネットワークでボランティアをしている人は、ブルースのシェルターについてこう言っている。
「初めてシェルターの中に入ったとき、まるで火星にでも来たかのような、違う惑星にいるかのような気分になるよ。地面に42台のスクールバスを埋めるという構想について聞いたとき、それを理解することは難しいかもしれないけれど、実際にそこに行って、目の当たりにしたら、もう言葉も出ないほどだよ。本当にすごいんだ。」
食べ物はどうだろう
箱舟2号で提供されるものは、かなり基本的なものだが、ブルースは十分な食糧を搭載している。シェルターには業務用キッチンが2部屋備わっており、災害時にはシェルターに料理人の友人を呼ぶようにしている。
1つのキッチンは調理用で、もう1つは主に皿洗いなどをするために使われるよう設計されている。さらにキッチンの近くには、食糧やその他関連用品を保管するための倉庫を配置している。実際、ブルースにとって、食糧を保管しておくことは、最も困難なことの1つだった。
食糧の保管問題
非常用シェルターを所有する上で、最も重要な要素の1つは、十分な食糧を保管することに尽きる。たとえ、それがいつ必要になるのか分からなかったとしても。ブルースは、ライフワークとなっている箱舟2号の中でも、これが最も困難な問題だと述べている。
ブルースはナショナルポスト紙にこう答えている。「これまでに何トンもの食糧を捨てなければならなかったか、把握していません。」たとえ缶詰のように保存のきく食糧品を配備したとしても、シェルターが完成してから30年の月日が経っているのだ。それまでにほとんどの食品の賞味期限が切れてしまっている。
その他、ブルースが計画したこと
ブルース・ビーチは箱舟2号を建設するとき、すべてを確実に網羅した。結局のところ、40年も計画段階に費やしたのだ。シェルターにはリビングルームや寝室(2段ベッド部屋)、トイレ、教室、無線通信センター、医務室、図書室、娯楽室、遺体安置所、それに歯科医のイスまでもが装備されているのだ!
さらに、生活を便利にするものとして、手術室、洗濯室、会議室、教会、運動できるスペース、また、子ども連れが「子どもが泣いても、周囲を気にしなくてもいい部屋」を備えた託児室まで備え付けられていた。1万平方フィートのシェルターには、倉庫スペースもたくさん用意されていた。
家族でも同室にはならない
この箱舟2号では、男性と女性は分かれて暮らすようになっている。その理由は、もし家族が共に過ごすために2段ベッド部屋を使ってしまうと、他の人のスペースがなくなってしまうからだ。どうしてブルースは、こんなに厳しいルールを課しているのだろうか。
Rad4U(核爆弾の事態に備えるためのリソースを専ら提供しているサイト)によると、「シェルターに多くの人を避難させるためには、政府の基準によって、このサイズのシェルターであれば、[何人]収容できる」と定められており、それに従わなければならない。「それぞれの2段ベッド部屋には24つのベッドがあるが、大人同士なら3人が交替して、子どもなら2人が交替して使用できる」
ブルース、シェルター内の子育ても計画のうち
箱舟2号でシェルター暮らしを余儀なくされた子どもたちが、災害後に外の世界で再び暮らせるようにと特別にしつらえた部屋もある。託児室や幼稚園に加えて、就学児童が学習を続けられるよう、教室も配備されている。
さらに、シェルターには遊び場まで設けられている。そこにはチェスボードなどを含む、ブルースが学習ツールとして重要だと考えるおもちゃがたくさん備え付けられている。
外の世界との通信
もちろん、箱舟2号が必要となる事態においても、避難者らは外の世界と、どうにかして連絡を取る必要がある。このシェルターには無線通信システムが装備されており、AMとFM両方の周波数を使って送信することができる。
通信システムは、カナダとアメリカ両方に電波を届けられるほど強力で、かつ、災害時には、被災者が必要な情報を収集するカギとなる。
プレッパーとは
「プレッパー」とは、いつか未曾有の災害が必ず起こると信じている人々のことだ。そしてプレッパーは、社会崩壊や核戦争といった最悪のシナリオに備えるために、時間や労力、そして持ちうるリソースを使う。
ブルースは、プレッパーの定義にぴったり当てはまると言える。また、ナショナルジオグラフィックの番組「破滅的な事態に備えるプレッパー」で、取り上げられたこともある。しかし、ブルース自身は、災害に備えるために人生の大部分を費やしている他の人と一緒くたにされることについて、どう考えているのだろうか。
プレッパーに対するブルースの意見
ブルース・ビーチは、多くのプレッパーに対して、かなりはっきりとした意見を持っているようだ。まだ未知の災害に備えてかなりの時間を費やしているのは、ブルースも他の人とそう変わらないが、ブルースの動機は、他の人とはどうも違う。
ブルースは、プレッパーの多くは、他者の心配というよりはむしろ、自身の安全のために備えていると述べている。一方で、ブルースは大災害が起きたときに、できるだけ多くの人の命を救おうと考えて備えているため、自身は献身的だと強調する。確かに、多くのプレッパーらは、自分達とその家族だけの安全を優先して計画している。
ブルースの家族はどう考えているのだろうか
ブルースの家族らは、ブルースのライフワークについてどう思っているのだろうか。ブルースには90歳になる妻がいるが、妻ジーンとの結婚生活は長く続いているため、明らかにブルースの任務について理解を示しているのだろう。事実、ジーンは計画や物品の在庫確認など、事務的な面でブルースを支えている。
しかしながら、ブルースの子どもらは、2人とも成人しているのだが、どうもあまり興味がないようだ。事実、この世の終わりが差し迫っているという考えについても、信じていない。そしてブルースは、理解のあるジーンでさえ、箱舟2号についてずっと話すのは嫌がると述べている。
外の世界からの反対
ブルースの壮大なプロジェクトを誰しもが応援しているわけではない。実際、地元当局はブルースの地下壕を閉鎖しようとしている。箱舟2号は、災害時にコミュニティの人々を助けることを目的として作られているにもかかわらず、オンタリオ州政府にとって、箱舟2号は巨大な公害以外の何物でもなかった。州政府は地下壕を元に戻そうと、膨大な額の費用を費やしてきた。
シェルターは、政府や地元からの許可を得ることなく作られたため、結果としてブルースは、なんと30回以上も法廷に出頭しなければならなかった。
消防局にも、敵が!
オンタリオ州の消防局もまた、箱舟2号が閉鎖されることを望んでいた。消防局は、実際に箱舟2号の現場にチームを送り込み、構造物を二度も立ち入り禁止とした。
さらに、ブルースがプレッパーやサバイバリスト達に箱舟2号をお披露目したときに、再び消防局が現れ、シェルターを閉鎖するように脅したのだった。こうした行為について、ブルースは、多くの人の命を救うためにしなければならない重要な作業の妨げとなっていると考えている。
未曾有の災害が起こるとする、ブルースの説
ブルースの従軍時代、空軍にて管制塔の通信士をしていた。さらに、後にコンピュータサイエンスを学んでいる。こうした経験に基づいて、ブルースは、パキスタンがインドに爆弾を落とすことで国際的な核戦争が勃発すると考えている。
しかし、ブルース自身にも、これがいつ起こるのかについては、分からないとしている。「かつては口癖のように、世界は今から2年以内に終焉を迎える、と言っていました。」とナショナルポスト紙に対して答えている。「でも今は、2週間以内、と言っています。もし間違っていたら、またそこで日にちを修正します。」
箱舟2号は、皆を歓迎する
箱舟2号に入るには、どんな条件を満たす必要があるのだろうか。どうやら、誰でも入れるようだ。ブルースは「SAFE」コミュニティと呼ぶネットワークを運営している。
SAFEとは、「Safe America For Everyone(皆にとっての安全なアメリカ)」の頭文字だ。つまり、災害が起こったときに、安全に避難する必要がある人を皆、人種や文化、言語、指示する政党や信仰にかかわらず、箱舟2号は受け入れるという意味だ。コミュニティのサイトには、「誰でも、箱舟2号の避難施設に入ることを認められます。ただし、未曾有の災害が起こる前までに入った場合に限ります。」とある。
未来への希望
ブルースは、人々は大規模な戦争や、災害の脅威に対する意識を高めるべきだが、それでも未来に対して楽観的な見方を失うべきではないと述べている。ブルースは、スマートフォンなどで時間を無駄にするのではなく、「今こそ、これまで以上に」戦争などの事態に備えるべきだと強調する。
それどころか、ブルースは、人々の生活を再建・改善する機会だとして、災害が、再生の機会になると見ている節もある。ウェブサイトで説明している通り、ブルースは「長期的には人類に対して楽観的な見通しを持っているが、近い将来については悲観的でいる」そうだ。