不機嫌な客の親子からチップをもらえなかったウェイター、謎の白い封筒を見つける
レストランで働くウェイターは、アメリカではたいていの場合、時給よりもチップが収入の多くを占めています。ニューヨークで医大生をしながらウェイターをしている27歳のアーマンド・マルカジは、チップで得られる収入を学費や生活費にあてていました。
しかしある日、2人の客を怒らせてしまい、チップがもらえませんでした。その代わり、テーブルにはメモと謎の白い封筒が置かれていたのです。アーマンドにとって、無私無欲とは何かを学ぶ物語が始まったのです。
ニューヨークの「パッツィーズ・ピッツェリア」から始まる物語
パッツィーズ・ピッツェリアは1933年にオープンした、ニューヨークを代表するピザレストランの1つです。何十年もの間、ニューヨークスタイルとも言えるクリスピータイプのピザを提供しています。
この店でウェイターとして働くスタッフの1人、アーマンド・マルカジは27歳の医大生で、学費や生活費の足しにするため、パッツィーズで9年間働いていました。学生としても、ウェイターとしても、アーマンドはいつも懸命に頑張っていることを自負していましたが、2019年5月のとある出来事によって、自身の忍耐力が試されることとなったのです。
忙しい土曜日、2人の母娘客が来店
5月4日は土曜日で、ピザ屋が1週間のうちで最も忙しい日でした。マルカジも他のウェイターと同じように、たくさんのテーブルを担当していました。母娘客が入ってきても特に何とも思わず、他の客のときと同じように2人を席に案内し、メニューを手渡しました。
マルカジは、この母娘が壁を眺めていることに気づきました。このレストランの壁には、古今東西を問わず有名人や常連客の肖像画や写真が飾られているため、壁を眺める客もそう珍しくはありませんでした。
奇妙な質問で、1日が台無しに
マルカジが声をかけると、2人はニューヨークスタイルのピザを2切れ注文しました。そして少し会話を始めたところで、母親が奇妙な質問をしてきました。「なぜ、壁にかかった写真には女性の写真が少ないんですか?」
マルカジはどう答えていいか分かりませんでした。90年も前から飾ってあるものもあるし、自分がそれらを選んだわけでもありません。それでもマルカジは、「女性のものもあるんですが、お客さまがおかけになったところに女性のものがないだけです」と答えました。
悪い冗談が、とんでもない事態を招く
母娘は、マルカジの答えに納得していないようでした。マルカジが「女性のものもあります」と答えたとき、母親の方は「それにしても少ないですね」と返しました。マルカジは困惑してしまいました。どう答えたら良かったのでしょうか。
少し動揺したものの、マルカジは冗談を言って場を和ませることにしました。「ほら、もうすぐ夏が来ますし、女性は(太りたくなくて)あまりピザを食べたくないんじゃないでしょうか」。言った後すぐ”しまった”と思いました。
...そして客は不機嫌に
マルカジが担当したこの母娘は、マルカジの冗談に笑うどころか、まったく気に入らなかったようでした。言った直後にマルカジも、このテーブルでの対応が難しくなりそうだと感じていました。しかし、その日は他の客で店もにぎわっており、マルカジは他にも多くの客を担当していました。
母娘はピザを受け取ると、すぐに「会計を」と言いました。そこでマルカジは、ピザの代金が書かれた勘定書を手渡します。この店で9年間ウェイターをしているマルカジは、いろいろなタイプの客の扱い方を心得ていましたが、この母娘から何を受け取るかなど、予想もしていませんでした。
怒った客からのメッセージ
次にマルカジが母娘が座っていたテーブルの方を見たとき、2人の姿はありませんでした。テーブルを片付ける前に、マルカジは会計を開いて見ました。チップの額はゼロでした。
さらに、母娘はマルカジにメモ書きを残していました。「女性もピザを食べます。ところで、女性はチップを払わないと聞いたことがありませんか」。チップが給料の大半を占めていたマルカジはとても嫌な気持ちになりましたが、その気持ちを押し殺してテーブルをきれいに片付けました。
しかし、テーブルには謎の小切手が…
マルカジがテーブルの上をきれいに片付けていると、封筒があることに気づきました。明らかに、先ほどの客が残していったものです。マルカジは、ゴミかと思ってその封筒を捨てようとしましたが、その前に中身を確認することにしました。
封筒を開けると、そこには「シティバンク銀行」のロゴがありました。先ほどの客がテーブルに小切手を置いていったのです。しかし、メモに書いてあったように、マルカジにあてたチップではないことは明らかです。急いで店を出たために忘れてしまったのでしょう。
小切手を返すべきか、もらっておくべきか
たくさんのテーブルを担当して忙しい土曜日でしたが、それでもマルカジは、小切手を置いていったにもかかわらず、ウェイターにチップを残さない客なんているのだろうかと考えました。その女性たちの失礼な行動を思えば、小切手をそのままマルカジがもらったとしても、何ら不思議はなかったでしょう。
その小切手をお客さんに返すべきか、それとも自分のチップとしてとっておくべきか、マルカジは悩みました。多くの人は、迷わずチップとしてとっておくことでしょう。しかし、マルカジはそんな自分勝手な人間ではありませんでした。
すぐに後を追ったものの
マルカジは、その小切手をそのままチップとしてもらっておくこともできましたが、そんなことはしませんでした。出ていった客を捕まえるため、すぐに店を出て後を追ったのです。
残念ながら、2人の女性を見つけることはできませんでした。マルカジは母娘の名前も連絡先も知りません。どうしたらいいだろうかと考えながら、マルカジは店へと戻りました。まだ店で担当している他の客にも対応しなければなりません。そして、小切手を返す方法もありませんでした。
落し物の小切手の金額はなんと、5,000万円
プライバシーの侵害かもしれないとも思いましたが、マルカジは封筒の中身を見てみることにしました。小切手には必ず口座所有者の名前が書かれているため、母娘を探し当てるのに役立つかもしれないと思ったのです。
封筒を開けたマルカジはかなり驚きます。なんと、小切手の金額はおよそ4,900万円だったのです。2人はそんな大金を失うことになってしまうのです。誰がこんな大金を持ってピザレストランに入るというのでしょうか。
さぁ、どうしよう
不意をつかれたマルカジは、上司であるレストランの現オーナー、フランク・ブリジャに連絡しました。それを見た63歳のオーナーは、「えっ!」と驚くばかりでした。オーナーもマルカジも、どうしたらいいのか分かりませんでした。
「普通、お客さんの忘れ物は店のスタッフルームの落し物箱に入れるんですけどね。」と、後にマルカジは言いました。「でも、5,000万円分もの小切手をそんなところに入れることなんてできません」。ひとつだけ確かなことは、母娘の態度がどんなに失礼だったとしても、マルカジは小切手を自分のものにしようとは思っていませんでした。
母娘は億万長者だった?
マルカジとブリジャは、小切手に書かれていたカレン・ビナクールという女性の名前を調べてみることにしました。名前を調べれば、すぐに見つかると思ったのです。「こんな大金の小切手を持ち歩く人がいるなんて、きっと億万長者か何かに違いないと思いました。」とブリジャは語っています。
ブリジャは息子のアデム・ブリジャ(30歳)に小切手の名前をグーグル検索するように頼みました。確かに、もし彼女らが億万長者であれば簡単に見つかるでしょう。
ネットで調べても何の手がかりも得られなかった
残念ながら、そう簡単にはいきませんでした。彼女の名前をググっても、何も役立つ情報は出てこなかったのです。カレン・ビナクールという名前の人はたくさんいましたが、マルカジが見た客の女性とは似ていません。一体どこの誰だったのでしょうか?
息子がその客をインターネットで捜している間、ブリジャもまた彼女がレストランに戻ってくるのを待っていました。「すぐにレストランに探しに来るはずだと思いました。」とロサンゼルス・タイムズに語っています。「いくら億万長者でも、あんな大金を失いたくはないでしょうから。」
ビナクール母娘、実は億万長者ではなかった
残念ながら、カレン・ビナクールはブリジャが思っていたほど裕福ではありませんでした。79歳の母親はソーシャルワーカーとして働いた後退職し、恵まれない女性や子ども達を支援する慈善団体でボランティア活動をしていました。
ビナクール母娘がパッツィーズに行く前、2人は1日中新しいコンドミニアムを探していたのです。カレンは古い家を売ったばかりで、落とした5,000万円の小切手は、新しい家を買うために使うつもりだったのです。
小切手がなければ、カレンはホームレスに
退職金の他に、カレンはその5,000万円しか持っていませんでした。つまり、それがカレンの全財産だったのです。しかも、彼女は家を売ったばかりで、住むところもありません。新しい住居を購入するために、その小切手を持っていたのです。
もしその小切手(あるいはお金)がなければ、カレンはホームレスになってしまうでしょう。引越しの間、彼女はすでに娘や他の家族のところに泊まらせてもらっていました。パッツィーズでの態度は、もしかしたら引越しなどのストレスの多い状況にあったためだったのかもしれません。
「ストレスでいっぱいの日」
ビナクール母娘の態度は理不尽だと思われるかもしれませんが、カレンにとってその日、ランチをしようとしてピザレストランに来る前に、すでにストレスでいっぱいの状況だったのです。ランチをしにくる前、カレンは家族や友人とインターネット上でチャットをしながら新しい家を捜していました。
しかし、いくらローンを組むためのクレジットスコア(信用度)が高くても、ローンを組ませてもらえないようでした。娘の学生ローンを何十年もかけて支払ってきたため、銀行は新しい家を購入するために十分な融資をしてくれなかったのです。「とてもストレスのたまる日でした」とカレンは語っています。
ストレスいっぱいでレストランにきてからの悪い冗談
カレンと娘は、その土曜日に家を探し、予算を決めて、不動産ブローカーに電話をし続けていました。パッツィーズに着いたときには、2人ともへとへとでした。それもあって、マルカジの「壁がどうのこうの」といった冗談に和むどころか、不機嫌になってしまったのです。
カレンは「娘は少し気が強いところがあって。あのときのウェイターさんの返しも気に入らなかったんです。」と言いました。「だから、彼にチップを払わなかったんです。」カレンは小切手をなくしたことに気づくまで、それが自分たちを苦しめることになるとは思いもしませんでした。
小切手を無効にすればいいのでは?
カレンは翌日まで小切手がなくなっていることに気がつきませんでした。財布のファスナーを開けてはじめて、小切手がなくなっていることに気づいたのです。しかし、すぐに慌てることはありませんでした。
「小切手なんだから、銀行に行って止めてもらえばいいかな、と思ったんです。」とカレンは後に語っています。月曜日の朝、ユニオン・スクエアにあるシティバンクの支店を訪ねました。しかし従業員から知らされたのは、良いニュースではありませんでした。
銀行から知らされた恐ろしいニュース
シティバンクで、カレンは恐ろしい知らせを受けました。この小切手は銀行小切手(キャッシャーズ・チェック)なので、すぐに無効にすることはできないというのです。小切手を無効にするには少なくとも3ヶ月は待たなければならず、その間に誰かが拾って小切手を現金化したとしても、それを止めることはできないのです。
このとき、カレンはパニックになりました。そのお金は家を売って得たものですし、いつまでも家族のもとに居候させてもらうわけにもいかないのです。その小切手がなければ、ホームレスになってしまう可能性もありました。
カレン、パニックになる
カレンは、娘と一緒にコーヒーを飲んだカフェに駆け込みました。しかし、その小切手は見つかりません。落ち込んだカレンは、不動産仲介業者に電話をかけましたが、留守電につながったため、メッセージを残しました。
カレンは娘に電話をかけましたが、娘も小切手を持っておらず、見つかりませんでした。カレンは財布だけでなく、家中、ゴミ箱まで調べました。どこにもありません。カレンは、もうどうしようもなく絶望的な気持ちになりました。
違うパッツィーズに電話をしてしまっていた
カレンは、結局パッツィーズにも小切手がないかどうか調べることにしましたが、レストランには行かずに電話をかけました。ところが、違うパッツィーズに電話してしまっていたのです。しかし、それに気づかなかったカレンは、パッツィーズに小切手がないことを聞いて途方に暮れました。
不動産仲介業者からも折り返しの電話がかかってきましたが、カレンと同じように困っていました。「カレンはパッツィーズに電話したけれど、小切手なんて知らないと言われたと言っていました。でも、もしかしたらカレンは違うところに電話したのかもしれないとも思っていました。」
マルカジにはいいアイデアが
カレンが必死に全財産の小切手を探している一方で、マルカジとブリジャは小切手の持ち主を探そうとしていました。ネットで探しても持ち主が見つからなかったため、ニューヨークの『ホームタウン新聞』に助けを求めることにしたのです。
新聞記者らは、公文書館で人探しをする術を心得ています。ブリジャが説明すると、『ホームタウン新聞』のライターが力を貸してくれることになりました。小切手の持ち主を探し出し、彼女を救った無私無欲のウェイターの話を記事にしようと考えたのです。
新聞社、ものの数分でカレン・ビナクールを探し当てる
数分後、新聞社の記者はカレン・ビナクールを探し当てました。パッツィーズの店から電話をかけ、「何か大事なものをなくされたのではありませんか?」と尋ねました。カレンはあまりの驚きと安堵感で、受け答えがやっとという状態でした。
「信じられない!なんてこと、安心したわ。私がどんな気持ちでいるか、分からないでしょうね。」興奮したカレンは「すぐにタクシーに乗って向かいます!今そちらに行きますから!」と話すと、すぐにタクシーに飛び乗り、パッツィーズ・ピッツェリア、今回は正しいパッツィーズへと向かいました。
マルカジとの感動の再会
カレンがパッツィーズのドアを開けて店内に入ると、すぐに小切手を持ったマルカジが目に入りました。マルカジは何も言わずに、カレンに小切手を手渡しました。そして、持ち主に返せて良かった、と言いました。
「ビナクールさんは涙を流していました。誰かが小切手を見つけてなお、そのまま持っていたことにとても興奮していました。」とマルカジはABC7に語りました。小切手を見つけたならすぐに現金化して自分のものにする人も多い中、マルカジは持ち主を探して返すという正しい行いをしたのでした。
カレン、自分がとてもラッキーだったと思う
カレンは、マルカジが小切手を返してくれたことに安堵し、『素晴らしい青年です』とNBC4のインタビューに答えています。「だって、彼はゴミ箱に捨てることもできたんです。私たちは客としてあまり親切ではありませんでしたから。彼にはゴミ箱に捨てるという選択肢もあったのです。」
ビナクール母娘は、まさかそのウェイターと再び会うことになるとは思ってもいませんでした。もちろん、マルカジの無私無欲の行動によって、彼に対する気持ちが変わったのは言うまでもありません。
ブリジャ、レストランの壁の写真について説明する
オーナーのブリジャは、小切手の返しただけではなく、カレンにピザをご馳走し、壁を案内して回りました。一緒に食事をしながら、ブリジャはパッツィーズの壁に描かれた有名な女性たちと、彼女たちがそこに選ばれた理由についてもカレンに話してくれました。
ニューヨーク・シティのファーストレディのシャーリーン・マクレイ、伝説のジャーナリスト、バーバラ・ウォルターズ、前市議会議長のクリスティン・クインとメリッサ・マーク・ビベリトの肖像画がありました。ビナクール母娘は、最初にパッツィーズに来たときに、この女性らの写真をすべて見逃していたのです。
嬉しいサプライズ
カレンに小切手を返し、ピザをご馳走したと同時に、オーナーのフランク・ブリジャはもうひとつのサプライズを用意していました。なんと、カレンの写真をパッツィーズの壁に飾りたいと言ったのです!
「今日ここで一緒に写真を撮って、それも壁に飾ろうと思っているんです。」とオーナーはカレンに言いました。「そしたら、女性の写真がもう1枚増えるでしょう?」カレンはその申し出を嬉しく思いました。なぜなら、何世代にもわたるパッツィーズの常連客や有名人の仲間入りをすることになるのですから。
カレン、チップを渡さなかったことを謝罪する
カレンはレストランに入ってすぐ、マルカジにチップを渡さなかったことをブリジャに謝罪していました。自分が書いた意地悪なメモは「良い気分ではなかったときに書いたものでした。」と伝えました。そして、マクラジに当日渡さなかったチップを渡そうとしました。
驚いたことに、マルカジはチップを受け取りませんでした。マルカジは、カレンの元へと小切手を返すことが、自分だけでなく、パッツィーズのスタッフ全員への十分なプレゼントになると考えたのです。マルカジの心の広さは決して忘れられないでしょう。
チップを受け取らなかったマルカジ、これには感謝
マルカジはチップを受け取りませんでしたが、カレンはマルカジが教科書など大学で必要なものを購入できるように商品券を渡そうと考えていました。娘の学費をローンで支払ってきた経験から大学を卒業するためにどれほど費用がかかるか知っていたため、マルカジが小切手を返すために尽力してくれたことに感謝したのです。
「私たちが失礼な態度をとったにもかかわらず、正しいことをしてくれたことにとても感謝しています」とカレンはABC 7に話しました。もしマルカジが小切手を返そうとしてくれなければ、カレンはホームレスになっていたかもしれないのです。
因果応報
奇しくも、これは母の日の少し前の出来事でした。カレンは小切手が手元に戻ったために、心穏やかに母の日を祝うことができました。マルカジはこの出来事を、皮肉だとも、心温まる出来事だとも感じたようでした。
マルカジはロサンゼルス・タイムズのインタビューに答えて「因果応報的なものを感じます。」と言っています。それを聞いたカレンは笑って、「私もそうだと思いました。だから、(失礼な態度を謝るために)ここに戻ってくるようになったのかも。」と答えています。
ワッフルハウスに勤めていた女性の人生がある出来事をきっかけに一変した理由とは
このワッフルハウスには、かなりの数の常連客がいました。そのうちの一人は、ローラ・ウルフという女性。彼女は、頻繁にレストランに立ち寄り、コーヒーやワッフルハウスのスタッフとの会話を楽しんでいました。
彼女がレストランに来るのは、毎週の習慣になっていました。しかし、その日2018年3月3日は、いつも朝食のために立ち寄るただの1日とは、全く異なる運命となったのです。ローラは、朝食を食べていた手を止め、それに注目せざるを得ませんでした。そして、どうにかその人物を写真に納めようと、彼女はスマートフォンに手を伸ばしました。一方、写真におさめられようとしているその人物は、そのことに全く気づいていなかったのです。
なんで今日はこんなにたくさんの人が?
ローラが撮影を開始したのは、決して誰かがやっているのを見て、感化されたわけではありません。しかしこの日、ローラは他にも奇妙なことが起こっていることに気がつきました。ラ・マルク・ワッフルハウスは、いつも混んでいましたが、今日はその混雑時よりもはるかに混んでいたのです。それはまるで町の16,000人の住民ほとんどがそこにいるかのようでした。
店員は、朝のモーニングの提供で、注文や料理の提供に大忙しでした。ローラは、その様子をじっと見つめます。
ローラは、とある従業員に注目する
このワッフルハウスへ定期的に通うようになってから、ローラは一部の従業員と顔見知りになりました。特に忙しい朝によく働いていたウェイトレスの一人、エヴォーニ・ウィリアムズという女性とは仲良しでした。彼女はこのレストランに長年勤めている従業員であり、常連客にも働き者として知られていました。
わずか18歳のエヴォーニは、大学進学のためにお金を稼ぎ、貯金をすることに専念していました。ワッフルハウスでの長年の勤務経験は、彼女の経済的助けになりましたが、それでも貯金の額は、あまり増えていませんでした。
なんて忙しい日なんだ!
エヴォーニは、レストランがかなり混雑していることにある意味興奮していました。なぜなら、お客さんが多ければ多いほど、チップが多くもらえ、それは彼女たちの直接の稼ぎとなるからです。彼女は、一生懸命に注文を取り、飲み物や温かい食べ物の提供に勤しみました。
しかし、こんな忙しい日なのにも関わらず人手が足りていません。そのため、エヴォーニは、自分の仕事をしつつも、他のポジションの仕事までカバーしなければなりませんでした。彼女は、お客一人一人に一生懸命接客するために走り回っていましたが、あるテーブルに食事を提供した瞬間、そこから動かなくなったのです。
彼女は何に気付いたのか?
彼女がお腹の空いたお客さん達に、一生懸命食事を提供している時に、ふとあるお客に目がいったのです。彼女は、そのお客が少なくとも週に一度は訪れる常連客であることは認識していました。
その顧客は、78歳のエイドリアンという男性で、みんなから "Mr. Karaoke(ミスター・カラオケ)" の愛称で親しまれていました。ワッフルハウスの従業員は、彼がいつも酸素タンクを携帯していることから健康面で問題を抱えていることを知っていました。そんな彼にエヴォーニがとった行動は意外なものでした。
エイドリアンが彼女を呼び止める
エヴォーニは、一日中混雑しているワッフルハウスでノンストップに動き回っていました。 どうにかこの速い回転スピードに追いつこうと、休憩している時間なんて全くありませんでした。やっとの事で全ての仕事が円滑にまわるようになってきたなと思った、ちょうどそのとき、エイドリアンは、彼女を呼び止めようとしました。
忙しさにてんてこまいの彼女は、ようやくエイドリアンが声をかけようとしていることに気付き、彼が座っていたバーエリアの方に向かって歩いて行きました。彼は静かな声で彼女にあることをささやくように伝えたのです。エヴォー二は、この一部始終を他のお客さんにも見られているとは、この時まだ気付いていませんでした(誰が見ていたか覚えていますか?)。そう、彼女は自分がカメラに撮られているなんて知りもしませんでした。
カメラは全てを捉えていた
ローラは、エヴォーニとエイドリアンが会話をしているテーブルの真向かいにあるブース型の席に座っていました。 彼女には彼らが話している内容は聞こえません。もう少し近づいて彼らの会話がどうにか聞こえるように、彼女は耳を澄ませました。
エヴォーニと話すエイドリアンは、少し恥ずかしそうに見えました。どうやら何か予想もしないことが起こる気がして、ローラは、スマートフォンでビデオを撮ることにしたのです。
よく聞こえない
朝食の混雑が続くレストランで、他のテーブルの声を聞き分けるのは、そう簡単ではありません。特に、酸素を抱えたまま話す年老いた彼の声は、かなり注意しないと声として認識できないのです。
エヴォーニは、身を乗り出し、エイドリアンの話す言葉を理解しようと一生懸命努力しましたが、コックの一人が、彼女がいないことによって、レストランの食事の提供速度に遅れが出てきていることに気がつきました。コックは、彼女を呼び戻そうと叫びましたが、エヴォーには彼を無視し、エイドリアンに耳を傾け続けました。
彼は食事が気に入らなかったのか?
客が従業員を呼ぶときは、大体何か欲しいものがあるかクレームをつけたいかです。そのため、常連客のエヴォーニが彼女を呼んだのには、おそらく食事が気に入らなかったのだろうと、彼女は考えました。実際に彼は、静かに何かを彼女にささやいた後、食事を彼女の方に押し戻したのです。
エヴォーニは、ハム、トースト、フライドポテト、スクランブルエッグがのったそのプレートをすぐさま、彼に押し返しました。一体、何が起こったというのでしょうか。
他にも見ている人がいた
このやり取りは、長い時間がかかったように聞こえるかもしれませんが、実際はほんの数分程度です。彼女はこの短い時間、エイドリアンの話に集中していました。満員のレストランと空腹の顧客は、彼女とこの年配の男性が話している状況に一瞬注目しましたが、すぐにまた自分たちの話へと戻って行きました。
しかし、ローラはまだ彼らの動向に目を向けていて、引き続き録画も行なっていました。そして、ローラのカメラとは別のカメラも彼らの様子を捉えていたのです。
防犯カメラ
ワッフルハウスのような忙しいレストランでは、防犯カメラはかなり重要です。実際に彼らの座っているこの場所にもCCTVの防犯カメラが設置されていました。ローラは、興味本位で録画をしていましたが、天井からぶら下がっているこの防犯カメラは、意図なくここで起こったことをすべて記録してしまっていたのです。
誰もがその存在に気づくことなく、自然と馴染むように設置されたそのカメラは、後に大きな証拠となるのです。
ローラは、この状況をシェアすることに
ローラ・ウルフは、目の前で繰り広げられたその状況を目にした後、ハッとしました。 そして、従業員であるエヴォーニがお客に向かって、食べ物を突き返しているその状況を、更に何枚かの写真にも収めました。
彼女は、この写真どうするのがいいのか悩んだ末に、Facebookに投稿することにしたのです。この何気ない彼女の行動が、後にエヴォーニの人生を変えることになるとは、この時まだ知る由もありません。
疑問が浮かぶ
ローラが目にしたその状況は、エイドリアンが店員のエヴォーニを呼んだところから始まります。どうやら彼は、健康状態の低下を自覚しており、以前のように自分の身の回りことが思うようにできなくなっているようです。
エヴォーニと話している彼は、どこか恥ずかしそうに見えます。そう、彼は朝食に出されたハムを切るのに助けが必要だったのです。「フォークをもったり、ダンディに自分を保つことは、まだまだできます。」とエイドリアンは後にABCニュースに語っています。「しかし、切ろうとするその姿は、私が誰かを刺そうとしているように見えてしまいます。」と彼は続けました。そう、彼はエヴォーニにハムのカットをお願いしていたのです。
必要ならば助ける
エヴォーニは、ワッフルハウスで起こったその時の状況について話してくれました。「彼は、"手があまりうまく動かせない”と教えてくれた」と彼女はエイドリアンの申し出について語ります。彼女は、この彼の要求をきちんと聞くために、耳を近づける必要があったのです。
「彼の食べ物を切ってあげる必要があったので、ただ頼まれたようにしました。」と彼女はABCニュースに語ります。 エヴォーニは、ハムを一口大に切って、そして彼に渡してあげました。 実際、このような申し出は年配の方が集まるワッフルハウスでは、起こったとしても珍しい話ではないと、彼女はそんなに気にも止めませんでした。そう、この時までは。
ローラのFacebookが既にとんでもないことに
ローラは、目撃した一部始終について誰かと共有したいという思いにかられていました。そして、Facebookが写真や動画を共有するのに最適な場所だと考えました。彼女は、 「全てがよく聞こえたわけではないが、この年配の男性が自分の手はあまりうまく機能しないと彼女に言ったのが聞こえました。」
「彼は酸素を摂取しており、呼吸にも苦労していたので話すのにも苦労していました。 しかし、彼女は、ためらうことなく、彼の皿を取り、ハムを切り始めました。些細なことに見えるかもしれませんが、彼にとっては、他人にこのようなことを頼むのは、かなり勇気が言ったと思います。この世のすべてがとてもネガティブに思える一方で、親切心と思いやりのあるこの行為を一日の始めに見たことは、とても嬉しいです。」
話題になるなんて想像もしていなかった
ローラがまだワッフルハウスにいる間にも関わらず、既に彼女の投稿は大きな注目を集め始めていました。彼女の携帯は、息つく間もなく鳴り続けていました。人々は、エヴォーニの前向きな親切さに心を打たれていたのです。
「私たち全員がこのウェイトレスのように、少しの時間でもお客様を気遣い、手を貸してあげることができたら…」と、ローラは、思いも寄らない反響にFacebookの投稿を閉じることにしました。そう、彼女はここまで反響があるとは思いも寄らなかったのです。
エヴォーニへの圧倒的な賞賛の声
ローラの投稿はどんどん注目を集めていきます。彼女が最初に共有してからわずか数日で、写真は90,000件のお気に入りと50,000件近くのシェアを獲得していました。 人々はエヴォーニの親切な行為に感動し、この心温まる瞬間を自分の友人や家族に共有しました。
エイドリアンもこの投稿で注目された、とABCニュースに語りました。「ワッフルハウスに行った2日後に、知人が私にFacebookで注目を集めているよ。」と教えてくれました。「かっこよく撮られていたかい?」と彼は冗談を言いました。
市長も巻き込んだ話に
テキサス州ラマルケの市長の名前は、ボビー・ホッキングです。エヴォーニの善行に多くの賞賛の声が寄せられ、そのニュースは市長のオフィスにも届きました。彼はすぐにでも彼女に会いたいと思ったのです。そして、その会合は(もちろん)ワッフルハウスで行われるように手配されました。
レストランにはそのイベント用のカメラでいっぱいになりました。彼女は、市長がこの特別なイベントで何を計画しているのか知りませんでした。そう、彼は多くの人の前で彼女を称えたかったのです。
彼女にとって最高の日がここに
その重要な日がやって来ると、記者とカメラマンでいっぱいの職場を、エヴォーニは物珍しそうな顔で見ていました。しかし、少なくとも今回はカメラに撮られることがわかっています!
市長は到着すると、ワッフルハウスのバーの後ろに立ちました。エヴォーニは、あの日朝食をエイドリアンに提供した時と同じ場所に立ちました。そして市長は、これから特別なプレゼンテーションすると発表しました。彼は集まった人々とカメラに、3月8日をラマルケにおける「エヴォーニ「ニーニ」ウィリアムズデー」と宣言することを伝えました。この事態に彼女はかなり驚きました。しかし事態は更に大ごととなるのです。
好意のお返し
エヴォーニの話がインターネット上で話題になり、人々は彼女についてもっと知りたいと思いました。この女性はまだ若いのに、なぜワッフルハウスで働いていたのだろうか?と。
彼女は、大学に通う十分なお金を貯める為に一生懸命働いていました。それを知った人々は、彼女の学費を集めるためにGoFundMeのアカウントを作り、クラウドファンディングでお金の寄付を募ったのです。そして、とある有名な人の耳にも、この募金活動のニュースが入りました。
多くの人がエヴォーニを助ける為に立ち上がった
資金を集めるGoFundMeページでは、彼女が大学に通うことができるように寄付する人々が後を絶ちませんでした。彼女の町の人々だけでなく全国の人々が、この親切なワッフルハウスのウェイトレスに何か少し貢献できないかと募金をしたのです。
そして、ヒューストンにあるサウス・テキサス大学では、一部のスタッフから彼女が大学に通う目的について疑問が上がりました。そして、その答えを聞いて、彼らは特別な方法で彼女を支援できないかと考えたのです。後にわかる大学内の重要人物である彼は、 「エヴォーニの親切な行為を、少しでも彼女の生活に役立たせてあげたかったと語ります。」
重要人物はそこにいた!
ワッフルハウスでのイベントには、エイドリアンとローラのどちらも彼女を応援するために出席していました。そして、そこにはエヴォーニが夢にも思わなかった人も参加していたのです。
そう、先ほど話にもあったサウス・テキサス大学の学長です! 彼は後にインタビューで言ったように、エヴォーニに会う機会を自ら望み、「この善行が見過ごされないことを彼女に伝えたかった」と言いました。
予期せぬ発表
市長によるプレゼンテーションの後、サウス・テキサス大学の学長は、ワッフルハウス・バーの後ろにかまえていました。そして、彼は誰も想像もしていなかった贈り物を彼女に与えました。
ジャンボサイズの小切手を手に、学長は大学がエヴォーニになんと16,000ドル相当の奨学金を授与すると発表しました! エヴォーニ、そしてほとんどの観客は、このサプライズに驚きと喜びの涙を流しました。
まさかの事態
この援助は、エヴォーニにとって最高の幸せをもたらしました。ローラとエイドリアンでさえも、彼らの些細な日常の行為がワッフルハウスのウェイトレスの将来において、重要な役割を果たすなんて考えられなかったはずです。
ローラは、記者にこう伝えました。「あの日、ここはとても忙しかったのをご存知ですか?それなのにも関わらず、彼女は彼を通り過ぎることなく、熱心に彼の要望に耳を傾け、その問題を解決しようとしました。」エイドリアンも、彼女がしてれた行為によって、助けられたと付け加えます。
他の日だってきっと同じことをしたわ
謙虚なエヴォーニは、"皆、誰かが困っていれば、自然と他人のことを助けるはずだ”と言いました。彼女は、賞や奨学金、メディアに注目してもらうことなんて何もしていないと話しました。
彼女は、地元の記者団にも「こんなに讃えてもらうようなこと、私はしていないし、知らない。おそらく、どんな日であっても誰かに求められれば同じことをしたと思う。」と恥ずかしそうに言いました。見知らぬ人に助けを求めた時に、拒否されたことがある人は、この意見におそらく反対するだろう。このような精神が自然に備わっている彼女は、今後の未来に明るい希望を照らしてくれるだろう。